スケートボードの「パーク」は2020年の東京五輪で新たに正式採用されることが決まった種目の一つだ。スノーボードのハーフパイプに似ている部分があることから、平昌五輪スノボード・ハーフパイプ銀メダリストの平野歩夢らも参戦を表明している。2018年に初開催された世界選手権では、日本勢も表彰台入りを果たしており、2020年に向けての期待は高まるばかりだ。
「パーク」はスノーボードのハーフパイプに近い
2020年の東京五輪で新たに正式種目に採用されることが決まり、スケートボードの注目度が急上昇している。東京五輪で実施されるのは、男女それぞれ「ストリート」と「パーク」の2種目で、主な違いはコースの設計だ。
ストリートは平地に複数の障害物を設置したようなコースとなっているのに対して、パークのコースは「コンビプール」と呼ばれ、大きさや傾斜がさまざまな皿や深い椀状などの形をいくつも組み合わせてコンクリートを成型したような、複雑な窪地となっている。冬季オリンピックで実施されているスノーボードのハーフパイプのコンクリート版と言うと、イメージが湧きやすいだろう。
競技内容は、レースや試合形式のスポーツが多い夏季オリンピックのなかではめずらく、「表現力」を争う採点競技だ。パークもストリートも、スケートボードに乗り、ジャンプや空中動作、回転といった「トリック」の難易度、スピード、高さなどを評価する点は変わらない。パークの場合は、一人あたり45秒の持ち時間が3回あり、コースを自由に滑ることができる。採点の基準はトリックの難易度や完成度、スピードに加えて、オリジナリティや全体の流れ、安定感なども評価され、数値化される。特に「パーク」の場合は、窪地の底から急な傾斜を駆け上がることで高速な空中浮遊や、体操競技のような回転技を繰り出すことが可能で、美しいエアトリックが見どころの一つだ。
東京五輪におけるパークは、選手村から近い東京都有明北地区に建設中の有明アーバンスポーツパークで実施される予定となっており、2020年8月5日(水)に女子、6日(木)に男子がそれぞれ一日で決着をつける。
「Xゲームズ」で名をとどろかせたトニー・ホーク
スケートボードは比較的新しいスポーツだ。1940年代のアメリカで発祥したとされる。特に若い世代に人気で、競技中には軽快なBGMが流れ、開放的なムードで行われる。日本でも1970年代ごろから急速に広まり、東京都原宿の代々木公園などはスケートボーダーが集う定番スポットとなったほか、国内各地にスケートボード専用施設がいくつも建設されている。
オリンピックでは東京五輪から新競技として加わるため、金メダリストはもちろん初代王者、初代女王ということになる。そのほかの大会を見てみると、「Xゲームズ」や「デューツアー」などが主要大会として挙げられる。「Xゲームズ」は夏と冬の年2回開催されるスポーツ競技大会で、BMXやスケートボードなど妙技を競い合うさまざまなエクストリームスポーツの祭典と言っていい。アメリカのケーブルテレビネットワークであるESPNに通じて全世界にテレビ放送されるビッグイベントだ。
「Xゲームズ」で活躍したレジェンドには、スケードボード界のパイオニアであるトニー・ホーク(アメリカ)がいる。スケートボードを愛する人にとって、「バードマン」の異名を持つホークの存在は唯一無二のものだろう。1999年に「Xゲームズ」のハーフパイプにおいて、史上初の900度、つまり2回転半という離れ業を成功させたことにより、「スケートボードの神」として崇められている。冬季オリンピックで数々の功績を残している天才スノーボーダー、ショーン・ホワイト(アメリカ)を幼少期から指導していることでも知られており、現在もエクストリームスポーツ界に大きく貢献している。
「神」の愛弟子がスケートボードに参戦
2020年の東京五輪を控え、2018年11月、ワールドスケート連盟が主催するスケートボード世界選手権が中国の南京で初めて開催された。パーク部門の男子で優勝したペドロ・バロスは、ブラジル国内で期待を集めている若手スター選手だ。同大会で2位に入ったヘイマナ・レイノルズをはじめ、競技発祥国であるアメリカ勢も東京五輪ではメダル争いの中心となるだろう。そのほかスペインやフランス、ドイツ、スウェーデン、チェコなどを中心としたヨーロッパやオーストラリアなども近年は力をつけている。
「スケートボードの神」トニー・ホークの愛弟子であり、冬季オリンピックのスノーボード・ハーフパイプで3個の金メダルを獲得しているショーン・ホワイト(アメリカ)も、東京五輪の出場に意欲を見せている。実際、2007年の夏に行われた「Xゲームズ」では、スノーボードのハーフパイプに似たスケートボードの「バート」種目で優勝を果たしており、オリンピックでの夏冬制覇も現実的に達成可能な目標と言える。
女子のパークでは、2018年11月の世界選手権で四十住(よそずみ)さくらが金メダル、中村貴咲(きさ)が銀メダルと日本勢が1位、2位を独占。東京五輪でもメダル獲得の可能性は高いと見られるが、3位に入ったポッピー・スター・オルソン(オーストラリア)をはじめ、他国の追い上げも侮れない。
平野歩夢は夏冬連続メダルをめざす
東京五輪への出場、そしてメダル獲得をめざす有望選手は、日本国内に数多くいる。2018年に「デュー・ツアー」で見事初優勝を果たした堀米雄斗(ほりごめ・ゆうと)は、ストリートを得意としているが、パークもこなすオールラウンダーのスケートボーダーだ。2017年に世界最高峰の「ストリートリーグ」に参戦して以降、世界の舞台で常に上位争いを繰り広げており、東京五輪でも表彰台入りが十分に期待できる。
日本ローラースポーツ連盟強化指定選手に選出されている池田大亮(だいすけ)は、16歳の時に国内ランキング1位に立つなど早くから才能を発揮しており、彼もまた堀米と同様にストリートとパークの両種目に挑んでいる。2018年のアジア競技大会の男子パークで金メダルに輝いた笹岡建介も代表入りを狙う一人だ。
また、ソチ五輪、平昌五輪と冬季オリンピックの2大会連続でスノーボード男子ハーフパイプの銀メダルを獲得している平野歩夢(あゆむ)も、スケードボードへの挑戦を表明している。スノーボードとスケートボード、とりわけハーフパイプとパークは似ている部分が少なくない。平野の場合は、実家が新潟県村上市でスケートパークを営んでいることもあり、4歳のころからスケートボードに親しんで育ってきた。平昌五輪で金メダルを獲得したショーン・ホワイトへのリベンジマッチが実現するとなれば、大きな注目を集めるだろう。
女子では、西村貴咲が2014年からアメリカの大会で入賞を重ねており、2016年には「Xゲームズ」の女子パークでアジア人初優勝を達成。2018年のスケートボードパーク世界選手権を制し、VANSシリーズという世界大会でも優勝経験のある四十住さくらも、代表の座を狙っている。
東京五輪で日本人選手が結果を残すことができれば、スケートボードという競技自体への注目度は格段に高まるはずだ。自国開催のアドバンテージを生かし、日本列島を熱狂させるような好パフォーマンスが続出すれば、日本のスケートボード界は間違いなくさらに活性化する。