4度目のオリンピック、上野の413球。日本女子ソフトボールが悲願の金メダル【2008年北京オリンピック】
日本は新旧交代が大きく進み、徹底したデータ分析で大会に挑んだ。そして、エースの上野由岐子は、準決勝から決勝までの3試合を2日間で413球の熱投。4度目のオリンピックで悲願の金メダルを獲得した。だが、ロンドン五輪からソフトボールの除外が決定。あれから12年。ソフトボールがオリンピックの舞台に戻ってくる。
上野の413球。ライバルを破って掴んだ悲願の金
北京オリンピック決勝、日本は4連覇を賭けたアメリカと対戦。日本は3回表にヒットと内野ゴロで手堅く1点を先制。4回表は先頭打者の女イチロー、キャプテン山田恵里がソロホームランを放ち、2-0と差を広げた。
しかし、アメリカはその裏、世界の大砲ブストスがソロホームランで、すかさず1点を返す。日本のピッチャーズサークルには、もちろん絶対エースの上野由岐子。連投の疲れを気力でカバーし、変化球でうまくアメリカ打線を翻弄しながら、日本1点リードのまま6回裏へ。
アメリカは先頭打者をヒットで出すと、上野がもっとも苦手とする3番打者のメンドーサが勝負を避け、バントでランナーを送る。そして打席にはブストス。ここで、上野も勝負を回避。故意四球という、ソフトボール独特の敬遠を宣言してブストスを空いていた一塁へ歩かせた。
次の打者を四球にした上野は、1死満塁の苦境に追い込まれるが、連続して内野フライに打ち取り、この試合最大のヤマ場を無得点で凌いだ。そして、7回表に日本はエンドランで1点を追加。
その裏、アメリカ2死一塁の場面。上野が投げた大会413球目のボールは、サードゴロとなり、ファーストミットに送球が収まった瞬間に試合終了。グラウンドとベンチにいた日本選手たちは一斉に、ピッチャーズサークルの上野由岐子のもとに駆け寄り、全員で右手を高く突き上げた。
テーマは「感動力」。チーム全員で上野を支えた
日本代表チームは4年前のアテネオリンピック後、新旧交代が大きく進み、北京オリンピックでは、初出場選手が15人中9人となった。各国の戦力分析に力を入れ、選手は分厚いデータ集を読み込み、強豪投手の配球の特徴などをしっかりと覚え、守備対策にも万全を期した。
アメリカには190cmクラスの長身エースが2人おり、その攻略のため、投球時の一瞬の癖をも見逃さないように徹底した。日本チームは、オリンピックの選手村でも、毎晩自主的に独自のチームビルディングを行い続けた。テーマは「感動力を磨く」。アメリカには、もし決勝前の試合で負けても、最後に勝てばいい。途中で何があっても暗い顔はしない。見ている人たちを感動させる試合を、全員でやりきる。
一人ですべてを背負いがちなエース上野には、「無得点で押さえなくてもいい」「取られたら、取り返すから」「しっかり守るから」と、皆が声をかけた。試合中に上野の近くに野手が集まって声をかける場面が、アテネのときより多く見られた。日本チームには明るさと一体感があった。
北京オリンピックの決勝後、メダルセレモニーが終わったとき、いつもと違う光景が見られることとなった。日本、アメリカ、オーストラリアの選手たちが、ホーム近くに集まり、ボールを並べて地面に数字の「2016」を描くと、全員で肩を組むようにして、ある言葉を連呼し始めたのだ。
「Back Softball!」。
アテネ大会後に、オリンピックの正式種目が見直され、ソフトボールが北京オリンピック後の大会から除外されることが決まってしまった。2016年のリオデジャネイロオリンピックのときにはまた、ソフトボールを戻してほしい。国を越え、敵味方を越えたソフトボール選手たちの思いが、北京のグラウンドに集結したのだった。
あれから12年後。ソフトボールはオリンピックの舞台に戻ってくる。
【2008年・北京オリンピック・日本代表結果】
◆予選リーグ
○ 4-3 オーストラリア
○ 2-1 台湾
○ 3-0 オランダ
● 0-7 アメリカ
○ 3-0 中国
○ 5-2 ベネズエラ
○ 6-0 カナダ
◆準決勝
● 1-4 アメリカ
◆3位決定戦
○ 4-3 オーストラリア
◆決勝
○ 3-1 アメリカ