東京五輪女子マラソン代表争いに決着がついた。選考の最終レースとなった名古屋ウィメンズマラソンで一山麻緒が日本人7年ぶりの優勝。1月の大阪国際女子マラソンで松田瑞生(みずき)が記録していた2時間21分47秒を上回り、前田穂南(ほなみ)、鈴木亜由子に続く3人目の代表に内定した。
一山麻緒が7年ぶりの日本人優勝で最後の代表権獲得
残り1枠の東京五輪女子マラソン代表を争うマラソングランドチャンピオンシップ(以下MGC)ファイナルチャレンジは、3月8日に行われた名古屋ウィメンズマラソンが最終戦。代表権をめぐる基準となったのは、2カ月前、1月の大阪国際女子マラソンで松田瑞生(みずき)が出した2時間21分47秒だった。今大会でこの記録を上回る選手が現れるか、それとも松田が代表権を獲得するかに注目が集まった。
雨が降りしきるなか、海外招待選手も上回って最初にゴールテープを切ったのは、22歳の一山麻緒だった。ハーフマラソン日本歴代9位の記録を持つ一山は、ナイキの厚底シューズを味方に序盤から先頭集団でレースを展開。他の選手が次々と集団から離脱する状況、29キロを過ぎて先頭に上がった。そのまま他を寄せ付けず、最後は独走してフィニッシュした。
国内のレースでは高橋尚子のタイムを抜く日本新。海外レースを含めても日本歴代4位となる2時間20分29秒の好タイムをたたき出し、見事に3人目の代表権を獲得した。なお、同大会の日本人優勝は2013年の木崎良子以来、7年ぶりだった。
ナゴヤドームでゴールテープを切った一山は、永山忠幸監督と抱き合い、声をあげて泣いた。そして「今日みたいな日がくるのが夢だった」と喜びを語った。一山は鹿児島県の出水中央高等学校時代こそ目立った存在ではなかったが、ワコールに入社後は過去4度オリンピックに出場している福士加代子や、安藤友香とともに切磋琢磨してきた。
特に力を入れてきたのが30キロ以降のレース展開だ。MGCでは後半にかけて失速して6位に終わったものの、4度目のマラソン挑戦となった今大会では、雨に低温と過酷なコンディションながら、5キロを16分40秒の好ペースで快走。日本陸上連盟のマラソン強化戦略プロジェクトリーダーを務める瀬古利彦氏は「良いコンディションなら2時間20分は切っていた」とたたえ、今後の日本記録更新にも期待を寄せた。
5度目のオリンピックを狙った福士加代子は途中棄権
今大会は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、一般ランナーは参加せず、「エリートランナー」枠の選手のみで実施された。一山に続く2位となったのは、同じくワコール所属の安藤だった。2017年の同大会で初マラソン日本歴代最高となる2時間21分36秒をマークしている安藤は、序盤から先頭集団でレースを牽引したが、30キロ付近で脱落。2時間22分41秒でゴールした。
トラック競技も含めて過去4大会連続でオリンピックに出場している福士は、15キロ直後の給水ポイントで後れを取った。そして30キロ過ぎに途中棄権。だが、棄権後も走り続ける異例の形を取り、公式記録には残らないものの3時間20分13秒でゴールした。ワコールの永山監督は、「一山の努力はさることながら、チーム全体で勝ち取った優勝」と振り返り、37歳のベテランが見せた意地を評価した。
今大会で健闘が光ったダークホースは日本人3着となる5位に入った佐藤早也伽(積水化学)だ。佐藤は今大会の招待選手ではないが、3時間位内の自己記録を持つ一般参加の枠で出場。30キロ付近まで先頭集団に食らいついた。そのほか、細田あい(ダイハツ)が8位、岩出玲亜(アンダーアーマー)が9位、大森菜月(ダイハツ)が10位と、トップ10に日本人選手が6名入った。
日本陸連の瀬古氏は初導入のMGCに手応え
2019年9月に行われたMGCの結果により前田穂南(ほなみ)と鈴木亜由子が五輪代表に内定済み。そして、さいたま国際マラソン、大阪国際女子マラソン、今大会をもってファイナルチャレンジ全3戦が終了し、代表3選手が決まった。
過去のオリンピックでは複数の選考レース結果を比較して日本陸上連盟によって代表選手が選定されていたが、公平性や透明性確保などを狙い、今回からMGCが導入された。MGCファイナルチャレンジまでを含めた一連の代表選考について、瀬古氏は「大成功」と評価。特に最終レースで滑り込んで“ラストシンデレラ”となった一山に関して、「世界に通じるタレントを発掘できた」と手応えを口にしている。
東京五輪の女子マラソンは8月8日の朝7時から、札幌を舞台に開催予定。厳しい国内選考を勝ち抜いた3人のたくましいヒロインたちが、北の大地で力走を見せる。