1920年のアントワープ五輪に参加して以来、競泳競技は日本勢が多くのメダルを獲得してきた競技だ。オリンピックのなかでも高い人気を誇る競泳の歴史を振り返りながら、東京五輪でもさまざまな選手の活躍が期待される競泳競技の特徴や見どころを紹介する。
シンプルな記録競技で高い人気を誇る
競泳競技は、近代オリンピックの第1回大会である1896年のアテネオリンピックから行われているように長い歴史を持つ。同じく第1回大会から行われている陸上競技と同じように、勝敗がわかりやすいシンプルな記録競技であることが人気の理由の一つだ。
競泳日本代表が初めてオリンピックに参加したのは、1920年のアントワープ五輪。当時はクロールなどの泳ぎ方は日本に伝わっておらず、日本泳法(いわゆる古式泳法)での参加だった。内田正練と斎藤兼吉という2選手が世界に挑んでいる。
直近の2016年リオデジャネイロ五輪では、個人種目とリレー種目を合わせて32種目が行われた。2020年の東京五輪では男子800メートル自由形、女子1500メートル自由形、男女混合4×100メートルメドレーリレーの3種目が追加され、合計35種目が行われることとなった。屋外では、海や湖、河川などを利用して10キロメートルを泳ぐマラソンスイミング(オープンウォータースイミング)も行われる。
日本における競泳競技は、厳しい選考基準を設けていることで有名だ。オリンピック開催同年の4月に行われる日本選手権の一発勝負が基本。この大会で2位以内に入ることが条件で、しかも公益財団日本水泳連盟が独自に定める国際大会派遣標準記録を決勝で突破しなければならない。たとえその種目で1位になったとしても、この標準記録を突破できなければ代表に入ることはできない。この標準記録は前年度の世界ランキングを参考にしてつくられており、東京五輪の選考基準としては、世界ランキング16位相当の記録が標準記録となる予定だ。
代表選考の壁に関して言うと、リオデジャネイロ五輪の記憶が新しい。この時の選考会となった日本選手権では、100メートル平泳ぎで北島康介が準決勝で派遣標準記録を突破。決勝では2位に入ったものの派遣標準記録を突破することができず、結果として代表に入れなかった。ただし、自由形、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライの4種目では個人の派遣標準記録を突破できなくても、1位の選手がリレーの派遣標準記録を突破すれば、リレーメンバーとして出場することができる。
日本がメダルを獲り続けてきた得意競技
日本がオリンピックで初めてメダルを獲得したのは、オランダで行われたアムステルダム五輪だった。200メートル平泳ぎで鶴田義行が金メダルを、100メートル自由形で高石勝男が銅メダルを獲得。さらに4×200メートルリレーで銀メダルを獲得した。その4年後のロサンゼルス五輪では、金メダルと銀メダルを5つずつ、銅メダルを2つという成績を残し、過去最多のメダルを獲得するまでに競技レベルが向上。その後も4年ごとに数多くのメダルを獲得しており、オリンピック全競技のなかでも注目度の高い競技となっている。
近年では一つの種目だけではなく、多種目で活躍するマルチスイマーが増えている。有名なのは、2008年の北京五輪でリレーを含む8種目のすべてで金メダルを獲得したマイケル・フェルプス(アメリカ)だろう。フェルプスは200メートル自由形、100メートルと200メートルのバタフライ、200メートルと400メートルの個人メドレーとリレー3種目を制してみせた。リオデジャネイロ五輪で個人メドレーとフリーリレーの2種目で3つのメダルを獲得した萩野公介も、世界的なマルチスイマーの一人だ。
マラソンスイミングと競泳と両方で活躍するデュアルスイマーも誕生し始めている。有名なのは、ウサマ・メルーリ(チュニジア)。北京五輪の1500メートル自由形金メダリストで、ロンドン五輪ではマラソンスイミングで金メダルを、1500メートル自由形でも銅メダルを獲得した。直近のリオデジャネイロ五輪では、ジョーダン・ウィリモフスキー(アメリカ)が1500メートル自由形で4位、マラソンスイミングでも5位入賞を果たしている。一人で複数の種目でメダルを狙う選手が多く存在するのが、競泳競技の見どころの一つとなっている。
逆に、1種目に特化したスペシャリストもいる。代表的なのは、100メートル平泳ぎで57秒13という世界記録をたたき出したアダム・ピーティー(イギリス)だ。まだピーティー以外に、57秒台で泳ぐ選手は出てきていない。2位以下には1秒以上の差をつけているほど、ずば抜けた記録を保持している。
そういったスペシャリストもいれば、種目をまたいで活躍するマルチスイマーもいる。一人でいくつのメダルを獲得するのかといったメダル獲得数も含めて、記録以外にも、多くの見どころがあるのが競泳の特徴だ。
成功体験がメダル獲得につながる
2020年東京五輪は56年ぶりに日本で開催されるオリンピックだ。東京都江東区に建設中の、オリンピックアクアティクスセンターが戦いの舞台となる。
9月12日、東京五輪における競泳の日程が発表された。2008年の北京五輪と同様、午前中に決勝が行われる変則的なスケジュールだ。普段、午後の夕方以降に決勝競技を行う選手たちにとっては、体調やメンタル面の調整が非常に難しくなることが予想されている。
だが、北島はそんな不安を打ち破り、北京五輪の100メートル平泳ぎで当時の世界記録を更新、200メートルでも当時のオリンピック記録を樹立して、2大会連続2冠という偉業を成し遂げた。また、フェルプスも同じ条件ながら7種目で世界新記録、1種目でオリンピック新記録をマークしながら、前人未踏の8冠を達成した。彼らは「強い選手は、どんな条件でも強い」ことを体現したと言える。
北島を中心に、日本代表チームは北京五輪で午前決勝を経験し、メダルを獲得するという成功体験を持っている。東京五輪でもその経験を存分に生かすことがカギとなりそうだ。
注目を集める日本人選手の筆頭は、ロンドン五輪で銅メダル、リオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得し、400メートル個人メドレーでの連覇に期待がかかる萩野だろう。萩野と同世代で幼少期からライバルの瀬戸大也にも期待がかかる。瀬戸は自身初のオリンピックとなったリオデジャネイロ五輪で、400メートル個人メドレーの銅メダリストに輝いている。彼らが2017年の世界水泳選手権の王者、チェイス・カリシュ(アメリカ)らと争う個人メドレーは激戦必至で、見逃せない種目の一つだ。
女子で大きな期待を寄せられているのは池江璃花子だ。池江は100メートルバタフライの2018年世界ランキングで1位を獲得。日本が世界に後れをとっていた短距離種目でメダルを獲得できるかどうかに期待がかかる。
また、国同士の総力戦となるリレーも見逃せない。日本はリレー種目では5大会連続でメダルを獲得しており、東京オリンピックでもメダルが期待できる。
2000年のシドニー五輪以降、日本勢は常にメダルを獲得し続けている。来る東京五輪でも、国民の大歓声を力に変えた大活躍を見せようと、選手たちは日々のトレーニングに打ち込んでいる。