2020年の東京オリンピックでは空手やサーフィンなどが新種目に
復活した野球とソフトボールは日本優勝の可能性も十分
2020年の東京五輪は4種目が新たに加わる。日本発祥の空手、車輪がついた板で曲芸とも言える技を繰り出すスケートボード、そそり立つ高い壁を道具なしで登っていくスポーツクライミング、波を乗りこなす技術が問われるサーフィンが、世界中のスポーツファンを盛り上げる。追加種目として復活した野球とソフトボールでも、日本勢の躍進が期待される。
発祥の地だけに、空手では日本勢の意欲十分
空手は琉球王朝時代の沖縄で生まれた。2020年の東京五輪では男女ともに「形(かた)」「組手(くみて)」の2種目が実施される。
「形」は一人ずつ行う。敵がいると仮定した際の攻撃と防御の技を組み合わせた演武で、審判員による採点方式が導入される見込みだ。一度見せた技は同じ試合では使えない。多彩な引き出しを持つ必要がある。
「組手」は、8メートル四方の競技場で、一対一で戦う勝負を繰り広げる。「突き」「蹴り」「打ち」といった攻撃の技を、決められた部位に対して適切に繰り出すとポイントとなる。ポイントの種類は「有効」「技あり」「一本」などで、男子3分、女子2分の競技時間が終了した時点でポイントが多い選手が勝者になるのが基本だ。
「形」では男子の喜友名諒(きゆな・りょう)と女子の清水希容(きよう)に大きな期待が集まる。ともに2018年8月に行われたアジア競技大会で金メダルを手にした。「組手」の男子では荒賀龍太郎がメダリスト候補の一人だ。8月のアジア競技大会で優勝を果たしている。女子では2016年と2018の空手世界選手権決勝を経験しているを制した植草歩がメダル獲得に闘志を燃やす。
空手の会場は日本武道館で、「形」「組手」ともに2020年8月6日(木)、7日(金)、8日(土)に行われる。
スケートボードの注目は堀米雄斗、中村貴咲、西村碧莉
前後に車輪がついた板に乗り、ジャンプ、空中動作、回転といった技の難易度やスピードが採点されるのがスケートボードだ。2020年東京五輪では男女ともに「有明アーバンスポーツパーク」が会場となる。
街にあるような階段や手すり、壁や坂道などを模したコースで技を披露する「ストリート」と、曲線的で複雑なコースで技を繰り出す「パーク」という2種目が行われる。技の順番や種類、コース取りは自由。難易度やオリジナリティ、安定感や浮遊感などが総合的に評価される。「ストリート」は7月26日(日)と27日(月)、「バーク」は8月5日(水)と6日(木)に開催される。
男子では現代のスケートボード界を牽引するニーヤ・ヒューストン(アメリカ)に注目が集まる。1994年生まれのプロスケーターで、わずか7歳でスケートボードブランドからサポートを受けて以降、数々の大会を制してきた。日本の男子では2018年7月にロサンゼルスで行われた「ストリートリーグスケートボーディング」という世界大会で優勝を果たした堀米雄斗の活躍が見込まれる。
女子ではアメリカで行われた大会で何度も入賞経験のある中村貴咲(きさ)、2017年の日本選手権の「ストリート」で優勝した西村碧莉(あおり)らの華麗な技が大会を盛り上げそうだ。
女子勢はまだ10代の伊藤ふたばと森秋彩の活躍も
高い壁を文字どおり自分の力だけで登る。壁にあしらわれたカラフルなホールドを使って高みをめざしていくのがスポーツクライミングだ。
2020年の東京五輪では3種目が対象となる。同じ条件で設定された15メートルの壁を2人の選手が同時に登り速さを競い合う「スピード」、4メートルの壁を制限時間内にいくつ登れるかを争う「ボルダリング」、制限時間内に15メートル以上の壁のどの地点まで登れるかを勝負する「リード」が、8月4日(火)からの4日間で、「青海アーバンスポーツパーク」で行われる。
メダル候補と目されているのは、イタリアやフランス、ドイツやオーストリア、スロヴェニアといった欧州勢だ。各国に険しい岩壁を持つため、経験値が高い。「リード」の男子では1993年生まれで「天才」と称されるアダム・オンドラ(チェコ)、女子では21歳の若さで東京五輪を迎えるヤンヤ・ガンブレット(スロヴェニア)が注目株だ。
日本勢の男子では、是永敬一郎にメダル獲得の期待がかかる。160センチの体に抜群の持久力を秘め、2017年のクライミング・ワールドカップの・リード種目で優勝を果たした実力派だ。
女子では、小学生時代から20年近いキャリアを持つ野口啓代(あきよ)の「ベテラン力」に期待がふくらむ。2018年9月に行われたクライミング世界選手権のボルダリング種目で2位の成績を収めた。東京五輪時にはまだ18歳の伊藤ふたばと、16歳の森秋彩(もり・あい)といった若手クライマーも会場を大いに盛り上げるだけのポテンシャルを持っている。
地元の海が舞台となる稲葉玲王に地の利
サーフボードという板を駆使して波を乗りこなす競技がサーフィンだ。東京五輪では技術を含め、独創性やスピード感、ダイナミックさなどが採点の基準となる。
大会は男女ともに4メンヒートという方式が採用される。4人ごとに競技を行い、2人が勝ち抜けるというルールだ。約20分の間に各選手10本程度のライディングを行い、そのなかで高い2本の合計点が順位に反映される。
千葉県長生郡一宮町にある釣ヶ崎海岸サーフィンビーチが大会の舞台となる。「世界最高レベル」と称される良質な波が人気のビーチで、7月26日(日)から298日(火)まで各サーファーが約183センチメートル前後のショートボードに乗って妙技を競い合う。
日本を代表する男子サーファーは稲葉玲王だ。父もプロサーファーで、6歳から波に乗り始めると、わずか13歳で日本最年少プロサーファーとなった。中学・高校時代は世界各国の大会に出場。2013年、16歳の時に挑んだ世界ジュニア選手権では4位入賞を果たしている。会場がある釣ヶ崎海岸サーフィンビーチがある千葉県の一宮町で生まれ育っており、地の利を生かせるのは間違いない。1997年生まれの村上舜もめきめきと力をつけている。
女子では2005年から日本代表として活躍し、世界での経験も豊富な大村奈央や、アメリカを拠点に活動する野呂玲花の上位進出が期待できる。2018年8月に16歳になったばかりながらすでにプロとして活動、中学生時代に全日本サーフィン選手権大会のガールズクラスを制している松田詩野は注目のヤングスターだ。
野球とソフトボールが追加種目として復帰
新種目が追加された一方、オリンピックの舞台に再び戻ってきた競技もある。男子の野球と女子のソフトボールだ。
いずれも世界的普及度が低いことなどを理由に2012年のロンドン五輪と2016年のリオデジャネイロ五輪からは除外されたが、開催都市提案による追加種目として実施されることになった。ともに福島あづま球場と横浜スタジアムが戦いの舞台となる。
野球は1996年のアトランタ五輪で銀メダル、1992年のバルセロナ五輪と2004年のアテネ五輪で銅メダルを獲得している。アテネ以降はすべてプロ野球選手によるチーム編成を採用しており、東京五輪も同様の構成が見込まれる。出場チーム数がこれまでの「8」から「6」へと減ったため、金メダル獲得の可能性は高まったと言っていい。稲葉篤紀監督は現役時代、日本代表選手として北京五輪やワールド・ベースボール・クラシックを経験。世界を知る指揮官が率いる「侍ジャパン」は、選手選考も含めて大きな注目を集める。
ソフトボールは発祥の地であるアメリカが優勝候補の筆頭だ。1996年のアトランタ五輪から3連覇を果たしている。ただし、強豪アメリカに他国が挑む構図において、日本が栄冠をつかむ可能性は決して低くない。事実、北京五輪では決勝でアメリカを3−1で下し金メダルを獲得した。2020年7月22日に38歳となるピッチャー上野由岐子も世界制覇に意欲を燃やす。2018年8月に行われ、決勝でアメリカに6−7までもつれこんで銀メダルを手にした世界選手権で示したとおり、好選手もそろっている。頂点はそれほど遠くない。