卓球がオリンピックの正式種目となった過去8大会は、ほぼ中国の独擅場と言える状態だ。ただし、2020年に向けた日本卓球界は、男女ともに絶対王者の牙城を崩すだけの可能性を秘めている。世界の舞台で目覚ましい活躍を見せる注目選手たちを紹介する。
東京五輪で混合ダブルスが新種目に
卓球は、世界的に普及度の高い競技で、2017年時点で約226カ国が国際卓球連盟に加入している。起源は1890年代のイギリスで、上流階級の人々がテニスの代わりに室内で遊んでいたことが始まりとされている。
オリンピックの正式種目に採用されたのは、男女ともに1998年のソウル五輪からだ。2004年のアテネ五輪までは、男女それぞれシングルスとダブルスの4種目が実施されていたが、2008年の北京五輪以降は、シングルスと団体の各男女、計4種目が行われるようになった。また、2020年の東京五輪では、混合ダブルスを新たに実施することが発表されている。
東京五輪では、開会式翌日の2020年7月25日(土)から8月7日(金)にかけて、いずれの種目も東京体育館で行われる。試合はトーナメント方式で、1ゲームは11ポイント。個人戦は7ゲーム制で、4ゲーム先取で勝利が決まる。団体戦は5ゲーム制で、3ゲーム先取で勝利となる。
2018年9月、日本卓球協会は、2020年東京五輪の日本代表候補選手選考基準を発表した。シングルス代表候補は、2020年1月発表の世界ランキングによって男女上位2名を日本オリンピック委員会(以下JOC)に推薦。団体戦に出場する3人目の代表選手は、ダブルスを見据えてシングルスの代表選手とのペアを考慮し、強化本部が決定しJOCに推薦する。また、混合ダブルスのペアは、シングルス及び団体戦に臨む代表選手のなかから選定される予定となっている。
五輪初出場を狙う中国の若きエースに注目
卓球における中国の強さは、他国の追随を許さない。過去8大会のオリンピックでは、全100個のメダルのうち、金メダル28個、銀メダル17個、銅メダル8個を中国が獲得しており、女子シングルスに至っては、頂点の座を譲ったことは一度もない。直近は3大会連続で男女シングルス、男女団体の全4種目を制覇と、表彰台の中央を独占している状態だ。
2018年12月に発表された世界ランクで男子のトップに立っているのは、2019年1月に22歳の誕生日を迎える若い樊振東(ファン・ジェンドン)だ。2018年のアジアカップで同じ中国の林高遠(リン ガオユエン)との決勝戦を制して頂点に立ち、その後、スウェーデンで行われた世界卓球選手権の団体戦では中国の優勝に貢献した。2016年のリオデジャネイロ五輪は、直前まで世界大会で結果を残し、世界ランク2位につけていながら代表選考で落選を経験。初出場がかかる東京五輪への意気込みは並ならぬものを持っているだろう。リオデジャネイロ五輪男子シングルス金メダリストの馬龍(マー・ロン)や、2018年12月時点の世界ランクで2位につける許昕(シュイ・シン)なども健在で、中国国内における代表選考争いにも注目が集まる。
女子では、世界卓球、五輪、ワールドカップの3大大会を制した丁寧(ディン・ニン)が女王の座に君臨している。2018年12月に発表された世界ランクでは、2017年のワールドカップ優勝者の朱雨玲(ジュ・ユリン )がトップに立っており、男子同様に女子でも中国国内における代表枠争いは熾烈を極める。他国では日本のほか、オリンピックで3大会連続のメダルを獲得しているドイツが中国の牙城を崩すべく、強化を進めている。
卓球大国のDNAを持つ「怪物」が日本をけん引
シングルスの五輪代表選手は世界ランクによって選出される予定だが、男子の最有力候補は2018年12月時点で5位につける張本智和だ。
2003年6月27日生まれの張本は、中国の元プロ卓球選手を両親に持ち、2014年に帰化。JOCが設立したエリートアカデミーに2016年4月に入校し、同年に行われた世界ジュニア選手権の男子シングルスを史上最年少の13歳163日で制覇した。2017年、デュッセルドルフで行われた世界卓球の個人戦でも、史上最年少でのベスト8入りを達成。また、2018年には、アジアカップで世界ランク1位の樊振東(ファン・ジェンドン)、萩村杯ジャパン・オープンでリオデジャネイロ五輪金メダリストの馬龍(マー・ロン)を相手に大金星を挙げるなど、中国勢相手にも結果を残している。「怪物」「神童」などと称えられている2020年エース候補の著しい成長は、日本男子卓球界にとって頼もしい限りだ。
2018年12月時点の世界ランクで10位に位置する丹羽孝希は、2012年、2016年と2大会連続でオリンピックに出場している。2009年に横浜で行われた世界卓球の個人戦に当時中学2年生で出場、2010年のユースオリンピックで金メダル、2011年の世界ジュニア選手権で優勝と早くから頭角を現した。リオデジャネイロ五輪では団体銀メダル獲得、シングルスはベスト8進出と世界舞台での経験は豊富だ。
日本卓球界の「第一人者」とされる水谷隼(じゅん)は、2020年で31歳となる。リオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得し日本勢シングルス初の表彰台入りを果たし、団体でも銀メダル獲得という日本卓球界の歴史を変えた功労者だ。全日本選手権の男子シングルスでは12年連続の決勝進出を継続中とまだまだ実力は衰えない。そのほか、クアラルンプールで開催された2016年世界卓球の団体銀メダル獲得メンバーの松平健太、大島祐哉などが代表入りをめざし、しのぎを削っている。
世界3位の石川佳純は個人でもメダルなるか
女子では、福原愛が2018年10月に現役を退いた。日本代表のエースであり、女子卓球界のアイドル的存在であった彼女の実力と人気を次ぐ選手として大きな期待がかかるのは、小学生時代から「愛ちゃん2世」の呼び声で注目を集めてきた石川佳純だ。
石川はロンドン五輪、リオデジャネイロ五輪と2大会連続で団体戦のメダルを獲得しており、世界卓球には12大会連続で出場。2018年12月時点での世界ランクは3位と申し分のない実績を残している。2018年3月のワールドツアー・ドイツオープンでは中国勢を2人破っての優勝を果たしており、日本の悲願であるオリンピックでの「打倒中国」を実現するためのカギを握る一人となるだろう。2017年にデュッセルドルフで行われた世界卓球ドイツの個人戦では、吉村真晴とペアを組んだ混合ダブルスで日本勢48年ぶりの金メダルを獲得。混合ダブルスが新種目として採用される東京五輪では、団体やシングルスとあわせてメダル獲得の可能性が十分に見込まれている。
2000年生まれの伊藤美誠(みま)は、世界ランクで石川に次ぐ日本勢2番手の7位につけている。リオデジャネイロ五輪では、団体戦メンバーとして銅メダルを獲得し、卓球種目における最年少メダリストとなった。2018年1月の全日本選手権では、女子シングルス、女子ダブルス、混合ダブルスを制し、史上最年少での3冠を成し遂げている。
伊藤と同学年の平野美宇は、リオデジャネイロ五輪の出場こそ逃したものの、翌年のアジア選手権で一躍、世界中の注目を集めることとなった。丁寧(ディン・ニン)、朱雨玲(ジュ・ユリン)、陳夢(チン・ム)という格上の中国勢を撃破して優勝。さらに、デュッセルドルフで開催された世界卓球の個人戦では女子シングルスで準優勝を果たして48年ぶりとなるメダルを手にし、その実力が本物であることを示した。
ほかにも、スウェーデン開催の2018年世界卓球の団体戦のメンバーである早田ひな、長﨑美柚(みゆう)など若手の勢いはすさまじい。東京五輪に向けて、日本女子卓球界は「黄金期」にある。