2020年4月の日本陸上連盟の理事会で男子20キロ競歩の日本代表に内定し、同年11月の記録会では1万メートルで世界最高記録となる37分25秒21をマークした髙橋英輝(えいき)。2021年2月の日本陸上選手権大会では優勝を逃したものの、歩型には手応えを得た。嫌々始めた競歩で、世界を相手に堂々と渡り合う。
本人の意思に反し、次々にレコードブレイク
「最初は嫌々だった」という競歩が、やってみると性に合った。髙橋英輝(えいき)は次々に記録を更新して日本競歩界の第一人者となり、東京五輪ではメダル候補にも挙げられている。
1992年11月19日、岩手県花巻市で生まれた。小学生時代はサッカー少年、中学ではソフトテニス部に所属した。高校進学の際、一つの夢を抱いた。「箱根駅伝で走りたい」。私立の強豪校への進学も考えたが、最終的には自宅から近く、花巻北高等学校へ進学。陸上部に入部した。この高校の恩師である塚田美和子氏によって高橋は競歩の道を歩むことになる。
強化の一環として陸上部全体で競歩のトレーニングをしたところ、競技への適性を見いだされた。箱根駅伝を走るという夢が遠のく一方で、塚田氏からはなにかにつけて競歩のトレーニングを受けることになる。
恩師の熱意が実り、高校2年次から本格的に競歩に転向した。その独特のフォームもあり、「最初はカッコいいとは思えなかった」と当時を振り返ったことがある。競歩の練習中、他人の視線を感じるとランニングに変えてしまうこともあった。だが裏腹に恩師の思惑どおり、高橋はすぐに頭角を現していった。
2009年秋、競歩を始めてわずか半年で国民体育大会への出場を果たし、少年男子共通の5000メートル競歩で5位に入賞すると、翌年の3年次にはインターハイ(全国高等学校総合体育大会)の男子5000メートルで4位という好成績を収めた。不本意な気持ちとともにスタートさせた競歩が、この頃には自分の将来を切り拓く競技になっていた。高橋自身も新たな夢を見出していく。
地元の大学で才能が一気に開花
大学は関東の有力校に進むことも考えたが、地元の岩手大学に進む。部活引退後に受験勉強に励み、一般入試で合格した。塚田氏の恩師である清水茂幸氏が指導しており、競歩を続ける環境は整っていた。
岩手大学に進学後も成長は止まらなかった。2013年3月には日本学生選手権で20キロを制すると、同年12月には1万メートルで当時の日本記録となる39分6秒87をマーク。大学4年次の2015年からは、日本陸上競技選手権大会の20キロ競歩で5連覇を達成。2015年大会では1時間18分3秒という当時の日本新記録も樹立した。
競歩を多くの人に知ってもらいたいという思いを胸にして臨んだ2016年のリオデジャネイロ五輪では、42位と不本意な成績に終わった。東京五輪はリベンジの舞台となる。
2位となった2021年2月の日本選手権では注意・警告ともにゼロで完歩。3月の全日本競歩能見大会も2位に42秒差をつけての優勝を飾り、本番に向けて手応えを得た。
競技スタートから13年。気づけば競歩を嫌々始めた男が次々と日本記録を更新していた。テレビではアイドル好きの競歩選手として紹介され、陸上を始めるキッカケとなった「箱根駅伝を走りたい」という夢は、競歩で東京五輪のメダル獲得へ変化した。今や競歩世界ランキングでも上位に名を連ねる男は、栄冠を目指して歩き続ける。
選手プロフィール
- 髙橋英輝(たかはし・えいき)
- 競歩選手
- 生年月日:1992年11月19日
- 出身地:岩手県花巻市
- 身長・体重:175センチ/56キロ
- 出身校:宮野目小(岩手)→宮野目中(岩手)→花巻北高(岩手)→岩手大(岩手)
- 所属:富士通
- オリンピックの経験:リオデジャネイロ五輪(20キロ競歩) 42位
- ツイッター(Twitter):髙橋英輝 (@eiki1412)
- インスタグラム(Instagram):Eiki Takahashi(@eiki.takahashi.503)