新型コロナウイルスの影響でスポーツ界は軒並み活動が制限され、東京五輪を筆頭に多くの大会が日程変更や中止を余儀なくされている。そうしたなか、脚光を浴びているのが、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉えるエレクトロニック・スポーツ(以下eスポーツ)だ。プロのアスリートたちが参戦し、賞金は主に新型コロナウイルスの感染防止に使われるイベントが、スポーツ界に新たな風を吹き込んでいる。
NBAスター選手が集結、日本代表の八村塁も参加
2020年の4月上旬、アメリカの男子プロバスケットボールリーグNBAが興味深い取り組みを実施している。
現役NBA選手16人が人気ビデオゲーム『NBA 2K20」を操って競い合う「NBA 2K Players Tournament」が開催された。NBAのスタッフは「このトーナメントは、選手たちが互いに競い合いながらも、慈善活動とファンとの交流を同時に行える独特な機会です」とコメント。『NBA 2K20」の日本アンバサダーを務めるワシントン・ウィザーズの八村塁をはじめ、ブルックリン・ネッツのケビン・デュラント、アトランタ・ホークスのトレイ・ヤングなど、16人のバスケ界のトップ選手たちが出場し、画面越しに本番さながらの熱戦を繰り広げた。
大会は勝ち抜きトーナメントで行われた。八村はユタ・ジャズのドノバン・ミッチェルとの1回戦を74−71で制して2回戦へ。しかし、2回戦ではフェニックス・サンズのデビン・ブッカーに55−71と大差をつけられ、ベスト8で姿を消した。決勝はともにフェニックス・サンズでプレーするデビン・ブッカーとディアンドレ・エイトンとで行われ、ブッカーが史上初の大会の王者に輝いた。
NBAのスターたちが感情むき出しでゲームに興じる模様は地上波のスポーツ番組でも広く取り上げられ、シーズン中断で落胆するNBAファンを元気づけた。この大会の優勝賞金10万ドル(約1060万円)は、新型コロナウイルスの感染防止支援としてチャリティ団体に寄付されている。
錦織圭vs大坂なおみのドリームマッチが実現
テニスでもゲームを用いた大会が積極的に行われている。4月末には、本来5月3日からスペインで開催予定だったムチュア・マドリードオープンの中止を受けて、代替として、テニスゲーム『テニス ワールドツアー』を使ったオンラインeスポーツトーナメント「マドリードオープンテニス・バーチャルプロ」が開催された。
もともとゲーム好きとして知られる錦織圭をはじめ、ラファエル・ナダル(スペイン)やドミニク・ティエム(オーストリア)など多くのプロテニス選手が参加。16名で繰り広げられた男子の大会は、アンディ・マレー(イングランド)が優勝を果たしている。女子の大会はキキ・ベルテンス(オランダ)が制した。
優勝した2人はそれぞれ賞金15万ユーロ(約1700万円)を手に入れており、賞金の一部は、新型コロナの影響で試合ができず、経済的に困窮するテニス選手に寄付される。
5月には、テニスゲーム『マリオテニスエース』を使ったチャリティ大会「ステイアットホーム・スラム」が開催された。賞金はすべて新型コロナウイルス感染症対策のための基金に寄付されるという趣旨の大会だ。
ストリーミング配信も行われた大会には錦織や大坂なおみ、ヴィーナス・ウィリアムズとセリーナ・ウィリアムズ姉妹、引退して間もないマリア・シャラポワら豪華な顔触れに加え、ミュージシャンのスティーヴ・アオキさん、モデルのヘイリー・ビーバーさんらも参加。錦織と大坂という日本の男女エースが対戦する一幕も見られ、大きな注目を集めた。
スティーヴ・アオキさんとペアを組んだ錦織は、ヘイリー・ビーバーさんと組んだ大坂を下したのち、決勝まで進出。準優勝の成績を収めた。今大会に参加した全員が2万5000ドル(約270万円)を、優勝者はさらに100万ドル(約1億700万円)を新型コロナウイルス対策のために各自が選んだ慈善団体へ寄付した。
「日本代表」の岡崎慎司が2ゴールの大活躍
サッカー界では、以前から『FIFA』シリーズと『ウイニングイレブン』シリーズの2つのゲームが世界中で人気を集めている。同シリーズにおいては、新型コロナウイルスの感染拡大以前からeスポーツの大会が積極的に行われていたが、コロナ禍においてより活発化した。
4月下旬には43の国と地域が参加した国際チャリティマッチ「StayAndPlay eFriendlies」が開催され、岡崎慎司が日本代表として参戦。自身が所属するスペインリーグ2部のウエスカを操作した。ゲーム上の「岡崎慎司」が決勝弾を含む2ゴールを決めた岡崎は、「eスポーツを見て、自宅でストレスを感じている方も前向きになって楽しんでいただけたらうれしい」と話した。
リーグ戦の長期中断を強いられたヨーロッパでは、クラブや選手などがチャリティ目的で『FIFA 20』のオンライン大会を行っている。たとえば、2012年からeサッカー大会「バーチャル・ブンデスリーガ」を実施してきたドイツフットボールリーグはオンラインモードを使った「ブンデスリーガ・ホーム・チャレンジ」を開催している。
イングランドでは、4部リーグに所属するレイトン・オリエントが国際大会「Ultimate Quaran-Team」の開催をSNSで発表すると、マンチェスター・シティやローマ、アヤックス、ザルツブルク、マルセイユといった欧州強豪クラブだけでなく、南アフリカのオーランド・パイレーツ、オーストラリアのシドニー、アメリカのDCユナイテッドなど世界中から128クラブが参加する大規模イベントに発展した。この大会の収益の75パーセントはイングランド・フットボールリーグに、残りの25パーセントはWHOの基金やチャリティ団体に寄付される。
世界的なトライアスロンレースのIRONMANは、アスリートたちが自宅から参加できる大規模なバーチャルレースを開催。「Ironman VR Proチャレンジ」という大会では仮想サイクリングによって提供される屋内サイクリングシステムを使用し、115カ国から約1万1000人が参加している。プロフェッショナル部門も展開されたバーチャルのアイアンマンレースは、IRONMAN COVID-19サポート基金への寄付を目的の一つとしている。
「ステイホーム」が呼びかけられる世界情勢のなか、自宅でコントローラーを握るトップアスリートたちの素顔はファンの注目を集め、かつてない盛り上がりを見せている。密閉・密集・密接という「3密」を回避しながら、本物のスポーツさながらの興奮をリアルタイムで共有できるeスポーツは、今後さらにブームが加速していくことだろう。