錦織圭はなぜ世界屈指のテニスプレーヤーであり続けられるのか? 成長を支える2人のコーチ

1 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
数々のタイトルを手にしてきた錦織圭(中央)。その強さを支えているのは優秀なスタッフ陣だ

世界屈指のテニスプレーヤーの一人として躍動を続ける錦織圭の影には、その成長を支える2人のコーチの存在がある。アルゼンチン人のダンテ・ボッティーニとアメリカ人のマイケル・チャンだ。錦織を指導するコーチたちは果たしてどのような人物なのか。そのキャリアを追う。

錦織の躍進を支える2人のコーチと出会うまで

父に子ども用のラケットを授けられた錦織圭がテニスを始めたのは5歳の時だった。両親がテニスを趣味とし、姉も高校時代に全国大会に出場するほどの実力者。このような家庭環境のなかで、錦織も小学1年生になると地元、島根県松江市のテニススクールに通うことになる。

平日に3、4日の練習をこなし、週末は試合に臨む日々。努力の成果は小学6年生の時に結果として表れる。2001年5月に全国選抜ジュニア選手権で優勝。同年7月には全国小学生テニス選手権大会、さらに翌8月には全日本ジュニア12歳以下を制覇。史上5人目となる全国3冠を成し遂げた。

2003年には「盛田正明テニスファンド」の強化選手に選出され、アメリカのIMGアカデミーにテニス留学。フロリダを起点にトレーニングに励み、ジュニアの大会を転戦した。

4年後の2007年、17歳の時に錦織はプロ転向を宣言する。翌2008年2月にはデルレイビーチ国際選手権にてATPツアー初優勝。8月の全米オープンでは日本男子シングルとして71年ぶりのベスト16進出を達成し、同年のATPワールドツアー最優秀新人賞を獲得した。

2010年、さらなる飛躍をめざす錦織は自身の指導役となるコーチを模索する。そこで声をかけたのが、IMGアカデミーでコーチをしていたダンテ・ボッティーニだ。このアルゼンチン人指導者は、今なお錦織のフルタイムコーチを務めている。その3年後の2013年、錦織は世界的にも抜群の知名度を誇るマイケル・チャンを新たなコーチとして招聘。チャンはメジャー大会、グランドスラムを中心に帯同する専属コーチだ。

ATPランキングで自己最高となる4位を達成したのを筆頭に、国際舞台における錦織の躍進は、この2人のコーチの存在なくして語れない。

フルタイムコーチとして全大会に帯同するダンテ・ボッティーニ

2010年12月から錦織を指導するボッティーニは1979年8月10日生まれ、アルゼンチン出身の元テニスプレーヤーだ。

母の勧めにより幼少のころからテニスに親しみ、10歳になるころにはレベルの高いレッスンを受けるために地元のコロネル・プリングレスからバイアブランカという都市まで通った。13歳になるとアルゼンチンの首都ブエノスアイレスにトレーニングの拠点を移し、ヨーロッパを中心にツアーを回る。3、4年ツアーを転戦する生活を続け、その後、テニスの奨学金を活用してアメリカへと渡った。

選手としてはATP自己最高ランキング827位にとどまったものの、現役引退後にIMGアカデミーのコーチに就任。様々な大会で指導者としての実績を残し、プロコーチとして3年半が経ったころに錦織からオファーを受け、フルタイムコーチを務めることになった。

お互いに「相性がいい」と語るように、錦織とボッティーニはすぐに良好な関係を築く。

2人の協力体制は結果にもすぐに表れた。2011年1月時点で98位だった錦織のATPランキングが、シーズン終了後には24位までジャンプアップを果たしている。その後もボッティーニは錦織の飛躍を後押ししていく。フルタイムコーチの名のとおり、シーズンを通して全大会に帯同し、技術面や戦略面、そして精神面などを全面的にサポートしてくれるボッティーニに、錦織は10年近く信頼を寄せ続けている。

飽くなき向上心と錦織への大きな期待を抱くマイケル・チャン

もう一人、錦織がトッププレーヤーの一人へと躍進していくうえで欠かせない人物がいる。2013年12月に専属コーチへと就任したマイケル・チャンだ。

チャンは1972年2月22日、台湾からの移民だった両親のもと、アメリカのニュージャージー州に生まれた。早くから若手の注目株として脚光を浴び、12歳の時にUSTAジュニア大会の18歳の部で優勝を飾る。1988年、16歳の時にプロ転向。翌1989年には快進撃を見せて全米オープンを制覇。17歳3カ月でのグランドスラム優勝は、男子テニス史上最年少記録となっている。

身長175センチ、体重73キロ。チャンは決して恵まれた体格ではなかったものの、強じんなフットワークとクレバーなプレー、そして最後の最後まであきらめない強力なメンタリティーを武器に世界トップレベルで躍動した。ツアー通算34勝、ATPランキング最高順位は2位。2008年に国際テニスの殿堂入りを果たしている。

錦織のコーチを務めるようになってもうすぐ6年。あるメディアの取材で、チャンは錦織に関して次のように話している。そこには勝負師としてのチャン自身の飽くなき向上心と、錦織への大きな期待が含まれていた。

「個人的には、彼が世界で4位や5位になることは素晴らしいと思う。でも、私はそれだけでは満足しない。もし彼にこれ以上の改善点がないというのであれば、この順位でも誇りに思うでしょう。でも、その才能を見ればまだ進歩の余地がある。だから、最高順位が4位では不十分だと思っています」

ちなみに、ボッティーニはメディアに対し、チャンとのコーチ同士の関係についてこう語ったことがある。

「とてもいい関係です。本当にすごくいい。お互いがお互いをうまく補完し合っています。コートの外では違いがありますが、テニスの話になると本当にうまく助け合えている」

コーチそれぞれのアプローチとともに、コーチ間の絶妙なバランス関係も錦織を成長させる大きな要因の一つとなっている。

もっと見る