西藤俊哉:小学3年生の時に太田雄貴と剣を交え、オリンピック出場の夢が明確に

リオデジャネイロ五輪の金メダリストに勝利した実力者

2017年には世界選手権で準優勝、全日本フェンシング選手権では優勝を果たした/時事

レジェンド太田雄貴の影響もあるのだろう、フェンシングの男子フルーレには好選手がひしめく。いずれも二十歳前後のヤングスターたちは、期待込みで「太田雄貴の後継者」と呼ばれることも多い。西藤俊哉(さいとう・としや)もその一人だ。若くして世界選手権で銀メダルを獲得しており、2020年東京五輪で主役を演じるだけの実力を備えている。

弱冠二十歳で世界選手権の銀メダルを獲得

1997年5月29日生まれ。西藤俊哉(さいとう・としや)は2019年4月に法政大学の4年生になる。2020年の東京五輪を23歳で迎える若手だが、実力は確かだ。

細身で軽く、よくしなる剣をいかに使いこなすかの技術が問われるフルーレの選手として成長を続けてきた。2017年7月、ドイツのライプチヒで行われたフェンシング世界選手権の男子フルーレ個人で銀メダルを獲得。準々決勝では2016年リオデジャネイロ五輪のフルーレ個人で金メダリストとなったダニエレ・ガロッツォ(イタリア)を撃破するなど、世界と堂々と渡り合ってみせた。

弱冠二十歳で獲得した世界選手権の銀メダルは大きな自信になった。その5カ月後に行われた全日本フェンシング選手権では優勝を手繰り寄せている。ロンドン五輪男子団体の銀メダリストの三宅諒や、全日本学生選手権大会で2連覇の経験を持つ大石利樹(りき)に勝利。決勝では同大会2連覇を狙う実力者、松山恭助との激戦を15−14で制し、頂点に立った。

ただし、2018年は苦戦した。6月にタイのバンコクで開催されたアジア選手権では5位に終わった。7月に中国で行われた世界選手権では初戦で敗退。12月、2連覇をめざした全日本選手権では、同じく男子フルーレのエースと目される松山に準々決勝で敗れた。

不本意な時間が多かった2018年。2019年、その悔しさを発奮材料に変えることがさらなる成長を促す。

父の影響で、5歳の時にキャリアをスタート

父が元フェンシングの選手だった。地元の長野県箕輪町でフェンシングクラブを立ち上げると、「自分もやりたい」と言って5歳の時に剣を持ち始めた。

小学3年生の時に味わった貴重な経験は今でも忘れられない。京都で全国大会が行われた時、京都育ちの太田雄貴氏と対戦した。イベントの一環だったが、日本フェンシング界のレジェンドは本気だった。子ども相手だからといって手を抜かず、正真正銘のフェンシングでぶつかってきてくれた。それがうれしくて、でも負けて悔しくて、「この人みたいになりたい」と思った。オリンピック出場が明確な目標になった。

小学生時代に頭角を現し、中学2年生の時にJOCエリートアカデミーに入校する。オリンピックを含む国際競技大会で活躍できる選手を育成する環境で実力を磨いた。全国大会にも出場した。2014年4月、高校時代にはブルガリアで行われた世界ジュニア・カデ選手権に出場。男子フルーレ(ジュニア)で銅メダルを獲得する。同年10月にはジュニアワールドカップ・バンコク大会で個人と団体で優勝を果たしてみせた。

法政大学進学後、2017年4月に開催された世界ジュニア・カデ選手権では、男子フルーレの個人と団体で準優勝を経験した。この2つの銀メダルが、3カ月後の世界選手権における銀メダル獲得の大きなはずみとなった。

フットワークの軽さと駆け引きのうまさが武器

小学3年生の時に対戦した太田氏は日本フェンシング界のパイオニアだ。英雄と同じフルーレで世界トップクラスの実力を身につけた西藤は「太田雄貴の後継者」と称されることもある。

ただ、まだ「太田雄貴の後継者」の一人に過ぎないのも事実だ。

2016年の世界ジュニア・カデ選手権の個人フルーレで銅メダルを獲得した松山恭助や、法政大の同級生で、2017年の世界選手権で銅メダルを手にした敷根崇裕(たかひろ)。法政大の一つ後輩で、2016年のジュニアワールドカップで3位入賞を果たした鈴村健太や、2018年の東京都シニア男子フルーレ個人選手権を制した日本大学の伊藤拓真。同世代には有望株がひしめく。誰が正式に「太田雄貴の後継者」になっても不思議はない。

時に団体戦のチームメートにもなるライバルたちと比較すると、フットワークの軽さが西藤ならではの特長の一つに挙げられる。フェンシングの選手として国民体育大会に出場した経験もある父から、小さなころから足さばきの重要性をたたき込まれた。駆け引きのうまさも目を引く。自らのフェイントをえさに相手を揺さぶり突きを繰り出す技術がある。アナリストとともに事前に対戦相手を分析する準備力も高く、相手の特徴を吟味した戦いができる。

何より他の「太田雄貴の後継者」にはない経験は大きい。二十歳で獲得した世界選手権の銀メダルと、翌年に味わったいくらかの停滞感。大きな自信と、晴らすべき悔しさは、2020年東京五輪に向けた最高の武器になる。小学3年生の時に剣を交えた英雄は、2008年北京五輪の男子フルーレで銀メダルを獲得した。2019年の成長曲線次第では、2020年に西藤がその偉業を塗り替えることも十分に可能だ。

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