若手の成長著しいサーフィン日本代表、“本場”育ちの選手に大注目

2018年のWorld Surfing Games Japanで日本は初の団体優勝を成し遂げた

2016年8月、国際オリンピック委員会(IOC)の総会で、サーフィンが東京五輪の追加種目になることが正式に決まった。日本サーフィン連盟では、世界通用するサーファー育成を目的に強化指定選手を選抜、定期的な強化合宿を実施して、個々の技術向上などに取り組んでいる。ここでは“波乗りジャパン”と呼ばれる日本代表候補たちについて紹介する。

勝負は競技開始前から始まっている

サーフィンは、サーフボードという板を使って波に乗るスポーツだ。サーフボードのサイズで、ロングボード(9フィート以上)とショートボード(6フィート前後)の2種類に分けられる。東京五輪で採用されたのはショートボード。男子と女子の2種目が行われる。サーフィンでは、選手がいかにうまく波を乗りこなすのか、ジャッジたちが採点し、その優劣を決める。難易度の高い技を繰り出せしたのか。また、スピードがあるのか、ダイナミックな表現ができているのかで、評価が大きく分かれる。

サーフィンは海という大自然の中で行われる競技だ。風の強さや方向、潮の干満などによって変化する波が相手だ。そのため、単に波を乗りこなすライディングテクニックだけでなく、どの波を選ぶかも、勝敗を左右するポイントになる。オリンピックでは、4メンヒートという方法が採用されており、4人ずつで競うことになるが、一回の波に乗れるのはひとりだけだ。崩れる直前の波の頂上(ピーク)に最も近い競技者に「優先権」が与えられるため、ポジション取りがとても大切になる。「優先権」を巡って選手たちは駆け引きをする。そのため、波に乗る前からすでに勝負が始まっていると言われている。

東京五輪のサーフィン競技には、男女20名ずつの選手が出場する予定だ。まず日本は、開催国枠として男女1名ずつの出場権が確保されている。残りの19名については、ワールドサーフィンリーグ(WSL)が主催するチャンピオンシップツアー(CT)の上位選手および、国際サーフィン連盟(ISA)が主催するワールドサーフィンゲームス(WSG)の成績により決定される。なお、日本がCTやWSGの結果により出場枠を確保した場合、開催国枠は返上される。

サーフィンの強豪国は、アメリカやオーストラリア、そして急成長を見せているブラジルが挙げられる。サーフィンでは、男子36名、女子18名のトッププロが参加するCTが、最高峰のシリーズ戦とされている。現在CTに出場している日本人は、男子の五十嵐カノアのみ。ただし、CTの予選であるクォリファイシリーズ(QS)では、女子の前田マヒナが優勝するなど存在感を示している。また、他競技の“世界選手権”に相当するWSGでは、日本人も好成績を残している。

日本代表をリードするのは米国生まれの選手たち

日本サーフィン連盟(NSA)では、日本代表である“波乗りジャパン”を選出するため、日本プロサーフィン連盟(JPSA)とWSLジャパンによる協議の下、強化指定選手を決定している。2018年度は81名を選出。東京五輪に向けて、選手の育成・強化を図っている。

注目選手1:五十嵐カノア(21歳)

1997年10月1日、アメリカのカリフォルニア州に生まれる。両親はともに日本人のプロサーファーで、1995年に米国に移住した。カノアはハワイの言葉で「自由」という意味だ。父親がハンティントンビーチでサーフィンをする姿を見て育ち、3歳のときからサーフィンを始めた。12歳でアマチュア全米王者になる。16歳でCTに本格参戦し。2017年、2018年とUSオープンを連覇するなど、米国でも若手のホープとして注目されてきた。しかし、五十嵐は2018年、CTに米国人としてではなく、日本人として出場することを決断し、“波乗りジャパン”の強化指定選手になることを選んだ。オリンピックに日本人として出場し、金メダルを獲得することを目指している。東京五輪の前哨戦のひとつされていた2018アーバンリサーチISAワールドサーフィンゲームス(愛知県田原市)で2位に輝いた。2018年のCTランキングは10位。開催国枠でなくても、五輪出場が可能な実力を持っている。

注目選手2:前田マヒナ(20歳)

1998年2月15日、ハワイ州に生まれる。両親ともに日本人で、30年前にサーフィンのために移住した。両親の影響で4歳からサーフィンを始める。マヒナはハワイの言葉で「自由」という意味だ。

16歳のときに、2014年世界ジュニア選手権U-16で優勝。2015年のWSL女子クォリファイシリーズ(WQS)の開幕戦で優勝。最終ランキングで11位になるなど、注目を集めた。前田も2018年にアメリカから日本に帰属を変更。ただ、その決断が遅かったため、2018年度の強化指定選手には選ばれなかった。なお、前田は2018年9月にモロッコのカサブランカで開催されたWQSで優勝。同年10月に宮崎県日向市で行われた国内最大のWQSでも3位に入るなど、女子代表候補として着実に存在感を高めている。2018年世界ランキングは日本人最高の14位だった。

サーフィンの魅力を広める絶好の機会

日本サーフィン連盟の強化指定選手はA、B、Cの3ランクに分かれており、A指定の選手から代表選手が選出される可能性が高い。2018年にA指定の選手は7名いる。男子の「安室丈」「新井洋人」「五十嵐カノア」「大原洋人」「上山・キアヌ・久里朱」「仲村拓久未」「村上舜」、そして、女子は5名で「大村奈央」「川合美乃里」「黒川日菜子」「中塩佳那」「橋本恋」。現時点では、この12名と前田マヒナが、有力候補ということになるだろう。

日本ではスポーツとしてのサーフィンの認知度はまだまだ低い。夏の海のレジャーといった印象の人がほとんどかもしれない。しかし、2020年の夏に、世界各国のトップサーファーたちが日本に集い、オリンピックの舞台で世界一を目指して競い合うのだ。それは日本においてサーフィンという競技の魅力を広める絶好の機会にほかならない。そして、日本代表の選手たちがアメリカやオーストラリアといった強豪国の選手相手にどんな戦いを見せるのか。“波乗りジャパン”の活躍が、サーフィンの普及に果たす役割は大きいだろう。

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