最も遠くまで金属製の球を投げられた者が頂点に立つ砲丸投。鍛え抜かれた選手たちの肉体が躍動し、そのすさまじいエネルギーが込められた砲丸が空を舞う。アジア勢にとっては長きにわたって不得意と言われてきた競技だが、日本人アスリートたちは世界基準となる「20メートル超え」や「18メートル超え」を果たし、東京五輪の舞台に立てるのか。中村太地や郡菜々佳などの躍進に期待が寄せられている。
日本の主流は安定性重視の「グライド投方」
男子7.26キロ、女子4キロの球を2.135メートルの円内から飛ばすのが、砲丸投げだ。片手で前に押し出すようなフォームで投げなくてはならず、野球のピッチャーのような投法は失格と判定される。また、円を中心に扇形に引かれた線の内側に落ちたものだけが有効となり、線上や線外に落ちたものは失敗となる。
オリンピックで行う試技は3回。そのなかで最も良い記録が予選通過標準記録に達した場合、決勝戦への切符を手にできる。決勝では予選同様3回の試技の後、そのうち上位6名がさらに3回投てきを行い、合計6回の試技のうち最高記録で順位が決まる。
投てき方法は2種類ある。日本国内では「グライド投法」が主流。投げる方向に向かって背を向けて準備動作に入り、勢いよく振り向いた時の加速と肩の動きを利用して砲丸を飛ばす。動きが複雑ではなく、安定性があると言われている投法だ。一方、海外では「回転投法」を採用する選手も増えてきた。全身を回転させ遠心力を使えるため、グライド投法より飛距離を稼げると考えられている。
2020年東京五輪への出場権を獲得するには、他の陸上競技同様、世界ランキングと参加標準記録の両方が加味される。標準記録により5割の選手を決定、残りの5割はランキングによって決まり、各国・地域の種目ごとの最大参加選手数は「3」。男子では20メートル以上、女子では18メートル前後が参加標準記録として設定されることが多く、日本勢にとってはこの壁を超えることが第一関門となる。
近年はニュージーランド勢の健闘も目立つ
砲丸投げの世界では、男子はアメリカ、女子はソ連(ロシア)がかねてから強豪国として知られてきた。
同時に近年はヨーロッパ勢やニュージーランド人選手の健闘も目立つ。2018年シーズンの成績で世界1位に君臨したのはトーマス・ウォルシュ(ニュージーランド)で、22.67メートルの飛距離を出した。リオデジャネイロ五輪では銅メダルを獲得している。同ランクでは22.53メートルで2位につけたライアン・クラウザー(アメリカ)は、2016年夏、22メートル52というオリンピック新記録をたたき出して金メダルに輝いた。
リオデジャネイロ五輪の女子砲丸投で頂点に立ったのもクラウザーと同じくアメリカのミシェル・カーターだった。自己ベストとなる 20メートル63を投げ、優勝を手繰り寄せてみせた。北京五輪とロンドン五輪で金メダルを獲得したバレリー・アダムス(ニュージーランド)は銀メダルに終わっている。
日本人選手は残念ながらリオデジャネイロ五輪への出場権を獲得できなかったが、母国開催となる東京ではぜひその勇姿を披露したいところ。男子では18.85メートルという日本記録を保持する中村太地(だいち)に期待がかかる。1993年1月15日生まれの中村は175センチ、115キロという日本人離れした体格で、日本では少数派の回転投法を武器としている。女子では2018年に15.96メートルを投げ、日本陸上競技選手権大会2連覇を果たした郡菜々佳(こおり・ななか)が有力候補だろう。1997年5月2日生まれの郡は円盤投も得意としており、2019年3月23日に59メートル03の日本新記録を樹立したばかりだ。
砲丸投を含むすべての陸上競技は、オリンピックスタジアム(新国立競技場)で2020年7月31日(金)~8月8日(土)の間に行われる。