アメリカ航空宇宙局に由来する名前を持つ畑岡奈紗(はたおか・なさ)の飛躍は目覚ましい。国内メジャー史上初のアマチュア優勝に、最年少でのプロ転向と日本人最年少のアメリカツアー制覇。競技歴9年の頭脳派ゴルファーは、「黄金世代」の主役として世界を舞台に奮闘を続けている。
史上初のアマチュア優勝で頭角を現す
女子ゴルフ界でまさしく「ロケット級」の急成長を遂げている注目の選手がいる。アメリカ航空宇宙局「NASA」に由来する名前を持つ畑岡奈紗(はたおか・なさ)だ。
畑岡は1999年1月13日、茨城県笠間市で生まれた。ゴルフを始めたきっかけは小学5年生の時、ゴルフ場で事務員をしていた母の博美さんに練習場へ連れて行ってもらったこと。中学生になると、プロゴルファーの中嶋常幸が指導する「ヒルズゴルフ・トミーアカデミー」の門をたたき、本格的なトレーニングに勤しんだ。
そして瞬く間に才能が開花する。高校2年次、3年次にIMGA世界ジュニアゴルフ選手権を連覇すると、2016年の日本女子オープンでは国内メジャー史上初のアマチュア優勝を達成。ゴルフを始めてわずか6年という若きホープが成し遂げた快挙だった。
この優勝をきっかけにプロ転向を表明し、宮里藍の18歳110日という記録を上回る17歳271日という日本人史上最年少でツアー出場資格を持つ女子プロとなった。2017年からはアメリカに主戦場を移し、レベルの高い戦いのなかで揉まれ、着々と力をつけていった。
アメリカでは当初、日本との環境の違いに苦戦し、思うような結果は出せなかった。それでも、2018年6月のウォルマートNWアーカンソー選手権で悲願のアメリカツアー初優勝を果たす。2位に6打差をつける完勝で、19歳162日でのツアー制覇は宮里美香の22歳10カ月を抜く日本人最年少記録だった。その後は同年11月のTOTOジャパンクラシックで2勝目を挙げるなど安定した成績を収め、同シーズンは女子の賞金ランキング5位と年間を通した活躍ぶりが目立った。
野球と陸上の経験を生かす勉強家
近年は幼少期からゴルフの英才教育を受けてきた選手も多いなか、11歳でのスタートは少し遅めとも言える。それでも畑岡が力を伸ばすことができたのは、ゴルフを始める以前の競技経験を生かすことができたからだろう。
畑岡は茨城県で過ごした小学生のころ、男子に交じって地元の少年野球チームに所属していた。野球もゴルフも「棒を振る」という動作は同じ。無駄な動きのないスイングは、野球で培われた技術の影響が大きいのだろう。そのおかげか、158センチと小柄な体格でも平均250ヤードをかっ飛ばす攻撃的なスタイルが持ち味となった。
中学時代には陸上部に所属し200メートル走で県大会7位に入賞した実績を持つ。陸上を通して鍛え上げられた足腰の強さは、ゴルフで重要視される体の軸の安定性につながっている。
野球や陸上で養われた運動能力に加えて、畑岡は圧倒的な練習量をこなす精神的なたくましさと、「ゴルフIQ」の高さを備えている。中学校では陸上部の活動が18時ごろまであり、一度帰宅して夕食をとってから、宍戸ヒルズカントリークラブまで片道約3キロ、アップダウンの激しい道のりを自転車で往復し、平日なら2時間ほど、休日なら5~6時間も集中してゴルフの練習に取り組んでいた。
同時に学業にもしっかりと励み、学校生活では生徒会の役員もこなしていたという。そんなハードな生活を3年間続けていたまじめさが物語るとおり、大会でも入念な戦略立てに余念がない。練習ラウンドの際にはグリーン上で水平傾斜器を使って傾きを確認するなどあらゆる情報を集め、ピンから逆算して戦略を考える。びっしりと書き込まれたメモは、彼女の強さを示す一つだ。
ライバル、勝みなみの存在が刺激に
女子ゴルフ界は1998年と1999年早生まれの代が「黄金世代」と呼ばれている。畑岡のほかにツアー優勝を遂げている勝みなみ、新垣比菜、大里桃子、小祝さくら、原英莉花、三浦桃香なども健闘している。
なかでも勝が畑岡にもたらした刺激は大きかった。2014年8月に行われた日本ジュニアゴルフ選手権競技(女子15歳~17歳の部)で、畑岡は2日目までに通算11アンダーで2位に6打差をつけていたが、最終日に勝に逆転優勝を許した。畑岡はこの時の悔しさを糧にし、その後のIMGA世界ジュニアゴルフ選手権での個人、団体ダブル制覇をはじめ躍進を果たしていった。
プロ転向後、1年目は単身でアメリカに乗り込み奮闘した。しかし、慣れない海外生活のなか、コンディションを整えるのは難しかった。予選落ちが続き、日本にいる両親に電話し、泣きながら弱音を漏らすこともあったという。
2年目からは母の博美さんも海を渡り、全戦に付き添って主に食事の世話や精神面のケアをサポートしている。母は高校時代、バレーボール部に所属しておりゴルフの経験はほとんどない。父の仁一さんもゴルフについてはまったく口を出すことはなく、独学で励む娘を温かく見守っている。
アメリカ航空宇宙局にちなんだ「奈紗(NASA)」という名前には、「世界に羽ばたいてほしい」という両親の思いが込められている。同年代の選手たちと切磋琢磨しながら、その名のとおり若くして日本を飛び出し、世界を股にかけて戦うNASAのさらなる飛躍に注目だ。