男子バレーボールに19歳のニューヒーローが誕生。西田有志は物怖じ知らずのサウスポー

春高バレーは未経験、17歳でVプレミアリーグデビュー

1 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
2000年1月30日生まれ。2018年に日本代表デビューを果たしたばかりながらすでに不可欠な存在となっている

Tokyo2020(東京五輪)でメダル獲得をめざすバレーボール男子日本代表にニューヒーローが誕生した。2000年生まれのオポジット西田有志だ。地元三重県の中学高校を卒業し、春高バレーも経験しないままVリーグ入りを果たした新星サウスポーは、瞬く間に日本代表の中心選手へと駆け上がった。

2000年生まれの19歳、鮮烈なW杯デビュー

東京五輪の開幕が着々と迫るなか、「龍神NIPPON」ことバレーボール男子日本代表のメダル獲得という目標が現実味を帯びてきた。10月1日~14日にかけて日本で開催されたFIVBワールドカップバレーボール2019(以下W杯)で、リオデジャネイロ五輪銀メダルのイタリア、世界ランク5位のロシアを撃破するなど、大会4位の結果を挙げて強豪国に割って入る快進撃を見せたのだ。そのなかで日本の得点源としてめざましい活躍を残したのが19歳のオポジット、西田有志だ。

西田は大会初日のイタリア戦で先発に名を連ねると、エースの石川祐希が挙げた19得点に次ぐ、チーム2位の16得点と奮闘。セットカウント3−0の勝利に大きく貢献し、鮮烈なW杯デビューを飾った。日本が3−0のストレート勝ちを収めた第6戦のオーストラリア戦では、石川を温存した第3セットに得点を重ねてチームを牽引。チームの課題の一つでもある「石川頼みからの脱却」に希望を見いだした。

続く第7戦のロシア戦でも、武器であるサービスエースを連続で決め3ー1の勝利に貢献するなど、強豪国相手にも堂々と渡り合える力を示した。第8戦までを終えてアタック99得点、ブロック6得点、サーブ18得点の計123得点を挙げ、中垣内祐一監督率いる日本代表に欠かせない存在となっている。

「地元」にこだわり、春高バレーには出場せず

2000年1月30日生まれ、三重県いなべ市出身の西田は、姉と兄の影響で幼いころからバレー会場に連れられており、自身も5歳からバレーを始めた。小学生時代には北京五輪のテレビ中継を見て、早くも「全日本」や「Vプレミアリーグ」を目標に掲げていたという。

西田の才能はこのころから注目を集めており、小学校卒業時には強豪中学から誘いを受けた。しかし、西田は地元のいなべ市立大安中学校への進学を選択する。バレー経験のある指導者がいないなか、西田が同級生に指導を行うという経験もした。中学時代には第28回全国都道府県対抗中学バレーボール大会に三重県選抜として出場するなど個人として成果を残し、バレーの名門である星城高校などからオファーを受けた。

しかし、ここでも西田は地元でプレーすることを優先し、三重県の海星高校に進学。高校バレーの華の大会である全日本バレーボール高等学校選手権大会(春高バレー)への出場は叶わなかったものの、個人としては岩手国体、第11回アジアユース男子選手権大会(U-19)といった国内外の大会に出場し、経験値を高めていった。

そして2018年1月、大学に進学せず高卒でのVリーグ入りを決めた西田は、同学年の選手たちが春高バレーで火花を散らす間、ジェイテクトSTINGSの一員としてひと足早くVリーグデビューを果たす。初出場となった堺ブレイザーズ戦から思い切りの良いスパイクを連発。同年3月にはVプレミアリーグのオールスター戦にリーグ推薦で選出され、豪快なプレーで観客を沸かせた。

そして翌4月、世界選手権に向けて始動した日本代表に抜擢され、5月の「FIVBバレーボールネーションズリーグ2019」で代表デビュー。予選ラウンドを通してベストスコアラー、ベストサーバーで1位をマークするなど高い得点力でチームに貢献した。さらに9月にイタリアとブルガリアで開催された世界選手権にも出場し、瞬く間に日本の期待を背負って立つ存在となった。

最高到達点344センチと跳躍力は国内トップクラス

身長186センチと、男子バレーボール選手のなかでは「大型」とは言えない西田は、世界の強豪相手にも壮快にスパイクを決めていく。その理由として最高到達点344センチと国内トップクラスを誇る跳躍力が挙げられる。ジャンプに入るまでのテンポも早く、相手のブロックが完成する前にアタックを打ち抜く姿が度々見られる。中学時代に選手兼指導者を経験したことなどから戦術眼も優れており、相手のブロックに合わせてさまざまなボールを柔軟に打ち分けることもできる。

また、中垣内監督が評価している「パワーと前向きなところ」によって生み出されるビッグサーブも魅力の一つだ。W杯では勝負どころでも物怖じせずに強いジャンプサーブを叩き込み、サービスエースを記録した。高校時代まではリベロの経験もあり、レシーブに対する苦手意識もない。10代で大きな注目を集めるようになっても謙虚さを失わず、課題であるブロックの改善にも熱心に取り組む精神面も、今後への伸びしろを感じさせる。

今年のW杯のメンバーには、西田と同じく左利きのオポジットである清水邦広も選出されていた。右ひざ前十字じん帯断裂などの大けがから復活を遂げた32歳のベテランは、西田がポジションを争うライバルであり、西田に「全日本」という夢を与えてくれた憧れの人物でもある。

西田がめざすのは、かつて北京五輪を見て清水のプレーに刺激を受けたように、次は自分自身が子どもたちに夢を与える存在になること。驚異的なスピードで成長を続ける彼は2020年、東京五輪の舞台でも、周囲の期待を上回る躍動を見せてくれるはずだ。

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