東京五輪で行われるトラック種目のうち、長距離に分類される5000メートルと10000メートル。長距離に区分ながら比較的距離が短く、終盤にはスパート勝負が繰り広げられる。求められるのはタイムや持久力だけでない。
持久力だけでなく、試合運びの上手さや終盤のスピードも求められる
5000メートルは1周400メートルのトラックを12周と半周を走る競技だ。他の長距離走と同様、スタート時からゴールまで各選手はオープンレーンで競うことになる。長距離種目に分類されるが比較的距離が短いため、特定の選手が大きく遅れることは少なく、終盤のスパートに入るまでは集団でレースが展開されることが多い。
それゆえ、レースを速く走る持久力だけではなく、試合運びの戦略や終盤でのスプリント力も要求される。なお、最後の1周に入ると電光掲示板等で残りが1周であることが表示され、鐘が鳴らされる。そこから繰り広げられるラストスパートがこの競技の醍醐味といえるだろう。最終盤には短距離走さながらのデッドヒートが繰り広げられる。
そのため、数名の監察員が競技中に違反行為がなかったかをチェックする。カーブにおけるショートカットやあからさまな妨害行為などが見られたときは、監視員が黄色のフラッグを挙げ、審判長に判断をゆだねる。審判長が重大な違反行為と判断するときは、選手は失格となる。
レースを進めるうえで重要なのが集団での位置取りだ。単に集団の先頭を走ることが勝利に結びつかないのが難しいところ。先頭に立てば風を切って走り続けなければならず、自らの体力を消耗するどころか、他の選手たちに体力の温存を許すことになってしまう。かといって集団から抜け出しにくい位置を走ると、終盤のスパート勝負になったときに出遅れてしまう恐れがある。
他の陸上競技と同じく、東京五輪出場権獲得には、世界ランキング上位へのランクインと国際陸上競技連盟IAAFが定める参加標準記録以内のタイムを出すという2つのルートがある。ただし、この2つの条件には優先順位が定められており、まず満たすべきは世界ランキングに上位に入ること。その後、世界ランキングで上位に入れなかった選手で、参加標準記録以内のタイムを出し、なおかつ優秀だと認められる選手にのみ5000メートルの出場権が与えられる。
強豪はアフリカ勢、日本は五輪2大会連続の入賞を目指す
男女ともに5000メートル世界記録の上位はほとんどケニアとエチオピアの選手に占められている。男子5000メートルの世界記録はエチオピアのケニネサ・ベケレがマークした12分37秒35。日本記録は、2015年7月18日に大迫傑が記録した13分08秒40となっている。このタイムはリオ五輪決勝で6位に相当するものだが、レース本番で最高のパフォーマンスを発揮することができるか分からないことに加え、5000メートル特有のレース展開、駆け引きがあるため、単純にタイムで比較できるほど単純ではない。
リオ五輪では、村山紘太と大迫傑が男子5000メートルに出場した。ともに予選落ちとなったが、大迫は予選突破まで約7秒差と可能性を示してみせた。しかし、大迫はマラソンに専念している。村山は2018年日本選手権で12位に終わり、東京五輪に向けた日本国内の争いは混沌としている。
女子5000メートルでは、鈴木亜由子、尾西美咲、上原美幸の3選手がリオ五輪に出場した。鈴木と尾西は予選敗退となったが、上原は決勝進出を果たし15位に入った。
トラックでも日本有数の実力を持つ上原だが、近年はマラソンにも挑戦。2018年9月のベルリンマラソンでは9位に食い込んでいる。本人はトラックとマラソンどちらにも強い意欲を持っており、東京五輪へ向けて”二刀流”で可能性を探っている。
2018年のアジア大会では鍋島莉奈が4位入賞、山之内みなみも6位入賞を果たしており、日本勢の勢いを感じさせた。
過去のオリンピックにおいて、日本人選手が5000メートルでメダルを獲得したことはまだ一度もない。しかし、コンスタントに2~3人の選手を送り込んでおり、リオ五輪の上原のように決勝に進出する選手もいることは心強い。東京オリンピックでは開催国としてのアドバンテージを活かし、上位入賞が期待される。