柔道男子は大きく躍進。史上最多の5階級で金メダルを獲得したが、金メダルまでの道のりもさまざまだった。
■阿部一二三、足技を駆使、妹・詩との史上初兄妹同時金メダル
66キロ級に出場した阿部一二三。妹の詩と史上初の兄妹同時オリンピック金メダル獲得という偉業も話題となったが、柔道の内容でもほかの選手を圧倒した。
2回戦から登場した阿部は、キリアン・ルブルク(フランス)、バスフー・ヨンドンペレンレイ(モンゴル)に対して、大外刈りで勝負を決めると、準決勝のダニエル・カルグニン(ブラジル)戦では得意の背負い投げで一本勝ちとして、決勝に進出した。
バジャ・マルグベラシビリ(ジョージア)との決勝戦は、組み手で不利を受けながら、阿部はいったん相手から離れると、袖釣込腰から大外刈りで技ありを奪った。その後も攻め続けた阿部が、終始試合をリードし試合終了。足技を駆使した戦いを見せ、金メダルを獲得した。
■大野将平、技を決めることにこだわり、オリンピック2連覇の偉業達成
日本柔道勢で唯一、オリンピック2連覇への戦いとなった73キロ級の大野将平。初戦を内股で、3回戦では横四方固めと立ち技、寝技で一本勝ちとし好スタートを切った。
準々決勝ではリオデジャネイロ五輪決勝と同じ対戦となった、ルスタム・オルジョフ(アゼルバイジャン)が相手。内股と大内刈りで合わせ技一本とすると、ツォグトバータル・ツェンドチル(モンゴル)との準決勝では延長戦までもつれるが、右からの小外掛で技ありとし、2大会連続の決勝進出を決めた。
決勝の相手は、2021世界選手権金メダルのラシャ・シャフダトゥアシビリ(ジョージア)。大野は延長戦に入ってから、徐々に大外刈りなどで技を出せるようになると、最後は支釣込足の技ありで勝利。まさに技でもぎ取ったオリンピック2連覇だった。
■ウルフ アロン、シドニーの井上康生以来の100キロ級金メダル
81キロ級と共に、シドニー五輪以来金メダルを獲得できていなかった100キロ級。前回のリオデジャネイロ五輪で羽賀龍之介が銅メダルとするまで、メダル圏内に入ることさえできなかったが、ウルフ アロンがその流れを断ち切り、快挙を成し遂げた。
初戦の2回戦を浮き技で一本勝ち、3回戦のペテル・パルチク(イスラエル)戦も大内刈りの技ありで時間内に決着させた。準決勝では、ワールドマスターズを過去3回制した、第1シードのバルラム・リパルテリアニ(ジョージア)を相手に大内刈りで技ありを奪うと、最後は相手の猛攻に耐えながら、時間内で決着させて銀メダル以上を確定させた。
決勝の相手は世界選手権2連覇中のジョルジ・フォンセカ(ポルトガル)を下して勝ち上がった、韓国のチョ・グハム。ここまで時間内で勝ち上がってきたウルフにとって、初めての延長戦を迎えると、5分にはウルフが技を出しながら優勢に試合を進めて、大内刈りで一本勝ちとして金メダルを獲得した。
混合団体の決勝では、1階級上のテディ・リネール(フランス)と対戦。4分間で決着がつかず、延長戦に入ると、2分にリネールから内股の技ありを決められて敗れた。今後は現階級にとどまるか、1階級上げて再び世界に挑戦するのかに注目が集まる。
■永瀬貴規、右ひざの大ケガを乗り越えて念願の金メダル
リオデジャネイロ五輪では銅メダルを獲得していた81キロ級の永瀬貴規。東京五輪を目指す矢先の2017世界選手権で、右ひさのじん帯を痛める大ケガに見舞われた。ケガから復帰後、勝てない時期が続いたものの、努力を積み重ねて勝ち取ったオリンピック出場。まさにその努力が報われた金メダルだった。
初戦から世界ランキング4位で2018世界選手権銅メダルのベダト・アルバイラク(トルコ)と対戦した永瀬。厳しい戦いの末、相手の反則負けから勝利すると、クリスティアン・パルラティ(イタリア)との3回戦では払腰の一本勝ち。
準々決勝では、ドミニク・レッセル(ドイツ)を相手に延長戦の末に技ありで勝負を決めると、準決勝では2021世界選手権覇者のマティアス・カッス(ベルギー)と対戦し、背負い投げで技ありとして決勝進出を果たした。
決勝では出血というアクシデントにも負けず、サエイド・モレイ(モンゴル)から足車の技ありで決着。我慢の柔道を貫いてきた永瀬が念願の金メダルを獲得した。
■髙藤直寿、日本男子金メダルラッシュの流れを作る
同じくリオデジャネイロ五輪60キロ級銅メダリストの髙藤直寿も、我慢の柔道で勝ち上がってきた。日本男子柔道の先陣を切って登場した髙藤は、初戦を内股で一本勝ちして好スタート。しかし、ここからがいばらの戦いとなった。
準々決勝の相手は、2019世界選手権金メダルのルフミ・チフビミアニ(ジョージア)。互いに譲らない展開となるが、最後はチフビミアニが髙藤へ抱き着く行為をして、3度目の指導となる反則負けで髙藤が勝利。準決勝ではリオデジャネイロ五輪銀メダルのイェルドス・スメトフ(カザフスタン)と対戦し10分を超える死闘の末に、髙藤が隅落の技ありで勝負を決めた。
決勝の相手は楊勇緯(台湾)。準々決勝、準決勝で消耗戦となった髙藤のスタミナが心配された。楊から内股を積極的に仕掛けられるが、髙藤がそれをこらえる。3試合連続の延長戦となった髙藤は延長3分、楊に3回目の指導が与えられて、その瞬間に髙藤の優勝が決定。決して派手さはなかったが、相手の猛攻にも耐えてつかんだ金メダルだった。