オリンピック競技の中でも数少ない日本発祥のスポーツ
オリンピック競技の中でも数少ない日本発祥のスポーツ「柔道」。投げ技、固め技、当て身技など約100種類の技を主体に、白と青の柔道着をまとった選手が10メートル四方の畳の上で、一対一の対決を繰り広げる。1964年、日本で初開催となった東京五輪で初めて競技種目となった。
当時、全4階級で3個のメダルを獲得して世界に存在感を見せつけ、その後も「お家芸」として、その力を世界に示し続けてきただけに、2回目の国内開催となる東京オリンピック2020では、ますます期待と注目が集まりそうだ。東京五輪での柔道を楽しむために、知っておきたい知識やルール、見どころなどを解説しよう。
初めて出場選手が男女同数に
明治期に嘉納治五郎が確立
柔道は、1882年に東京・永昌寺で嘉納治五郎氏が、指導を開始したのが始まりだ。嘉納氏は日本に伝わる格闘技の中でも、非力でも屈強な者に勝てるという「柔術」に改善を加えて、新しい技術体系や理論を確立させた。現在は中学校の保健体育の授業で「武道」(柔道、剣道、相撲)が必修となり、多くの子供たちに親しまれている。
7階級の個人戦と新導入の男女混合戦
オリンピックの柔道の階級は男子、女子それぞれ7階級に分かれている。
男子は60キロ級、66キロ級、73キロ級、81キロ級、90キロ級、100キロ級、100キロ超級。女子は48キロ級、52キロ級、57キロ級、63キロ級、70キロ級、78キロ級、78キロ超級に分かれる。それぞれトーナメント方式で争われる。
このほか、東京五輪から新種目として、男女3人ずつによる混合団体戦が行われることになった。メンバー構成は男子が73キロ以下、90キロ以下、90キロ超、女子は57キロ以下、70キロ以下、70キロ超の計6選手で構成される。6人が終わり、勝利数や得点で決着がつかない場合は、無作為に選ばれた階級の選手同士で代表戦を行う。
オリンピックへの出場資格はポイント制
オリンピックへの出場資格を得るためには、オリンピック、ワールドマスターズ、世界選手権大会などの柔道国際大会に継続的に出場し、「IJFポイント」を獲得する必要がある。
2020年5月25日時点の世界ランキングで、男女各7階級のそれぞれ上位18人(各国・地域1人)にまず与えられ、残りの枠は各大陸連盟などに分配する。日本には、男女とも各階級1ずつの開催国枠が与えられる。これまでは男子の数が多かったが、東京五輪では男女の出場枠数が初めて193人と同数となった。
試合時間と勝敗判定に新ルール
試合時間は男女ともに4分間。これまで男子は5分間だったが、東京五輪からの新ルールで1分短縮された。審判は技の優劣を重視し、「指導」の差だけで4分間が終了すれば、時間無制限の延長に入る。延長戦は、何らかのポイントを先取した選手が勝者となるゴールデンスコア方式を採用する。これまで「指導」は、4度目で反則負けとなったが、今回からは3度目で反則負けとなる。
勝敗の決め方も、東京五輪からの新ルールが導入され、「一本」と「技あり」のテクニカルスコアのみとなった。かつての「有効」や「技あり」2回で「合わせ技一本」は廃止。直接もしくは累積による「反則負け」を除き、「指導」(1 回目、2 回目)の違いだけでは勝者を決定しない。「指導」は相手のスコアとはならない。
「一本」「技あり」の詳細は以下のとおり。
〈一本〉…投げ技では相手を制しながら①強さと②速さを持って、③相手の背中を大きなインパクトを伴って、畳につけたとき(①②③すべて必要)。固め技では発声あるいは合図で「参った」を表明したとき。抑込技を20秒間、決めたとき。このいずれかで成立する。
〈技あり〉…投げ技では相手を制して投げ、「一本」に必要な3つの条件(上述の①②③)のうち、1つ以上が部分的に欠けたとき。抑込技での制止時間が10秒以上20秒未満。
柔道競技の見どころ
ルール変更により、時間が短縮され、技の判定が厳しくなった。「一本」を狙って、より大技を決めにいくようなダイナミックな試合展開が期待できるだろう。しかし、それは隙ができて相手にチャンスを与えてしまうことにもなる。試合時間の最後の最後まで粘り、そして、一気に勝負に出るような、手に汗握る勝負が増えることが、大きな見どころだ。
また、新種目として追加される「混合団体」にも注目だ。男女それぞれ3人、合計6人がチームを組んで戦う。この種目で有利になると予想されるのは、全階級に強豪選手を擁するチームで、日本は十分メダルが狙えると目されている。
これまで日本が柔道競技で獲得したメダルの数は、金・銀・銅計84個と世界でダントツの1位だ。2位はフランスの49個、3位は韓国の43個、4位はドイツ37個、5位はキューバの36個と続く。
東京五輪の注目選手がズラリ
柔道の会場は日本武道館(東京都千代田区)。日程は男子・女子ともに、準々決勝・準決勝・決勝が2020年7月25日~7月31日まで連日実施。混合は2020年8月1日に行われる。大会日程の前半に行われるため、柔道でいかにいいスタートが切れるかに高い期待が寄せられている。
全日本柔道連盟の強化メンバーの中で、2018年9月時点でのIJFポイントランキングが高く、出場が有力視されている選手は以下のとおり。
〈男子〉
・100キロ超級=原沢久喜・小川雄勢・七戸龍・上川大樹・王子谷剛志・佐藤和哉・影浦心・香川大吾・太田彪雅
・100キロ級=ウルフアロン・下和田翔平・西山大希・羽賀龍之介・飯田健太郎・山口貴也
・90キロ級=長澤憲大・小林悠輔・ベイカー茉秋・向翔一郎・田嶋剛希・長井晃志
・81キロ級=藤原崇太郎・永瀬貴規・小原拳哉・佐々木健志
・73キロ級=海老沼匡・橋本壮市・大野将平・吉田優平・立川新
・66キロ級=阿部一二三・髙上智史・丸山城志郎・藤阪太郎・橋口祐葵・磯田範仁・田川兼三
・60キロ級=髙藤直寿・永山竜樹・志々目徹・大島優磨・杉本大虎・古賀玄暉
〈女子〉
・78kg超級=朝比奈沙羅・山部佳苗・稲森奈見・山本沙羅・児玉ひかる・素根輝
・78kg級=濵田尚里・佐藤瑠香・髙山莉加・梅木真美・泉真生・梅津志悠・和田梨乃子
・70kg級=大野陽子・新井千鶴・前田奈恵子・新添左季・田中志歩
・63kg級=田代未来・津金恵・能智亜衣美・鍋倉那美・荒木穂乃佳
・57kg級=芳田司・宇髙菜絵・松本薫・玉置桃・舟久保遥香
・52kg級=志々目愛・阿部詩・角田夏実・立川莉奈・前田千島・古瀬舞
・48kg級=渡名喜風南・遠藤宏美・山﨑珠美・近藤亜美・田中芽生
2012年ロンドン大会のメダル数は7個だったが、2016年のリオデジャネイロ大会では、史上最多の12個を獲得した。今回は地元開催であることに加え、期待の選手がズラリとそろっている。「お家芸」の柔道で、日本代表が前回大会を超えて、どこまで躍進するかが楽しみだ。