2020年東京五輪の陸上競技には、男女計48種目総勢1900人が出場する。国際陸上競技連盟(IAAF)は従来も設定していた参加標準記録に加え、各種目のワールドランキングを設け、その上位に名を連ねることをオリンピック出場の条件に定めた。複数の大会に出場し、コンスタントに結果を残すことで東京への扉が開かれる。
2020年6月のワールドランキングが判断基準に
2018年7月31日、国際陸上連盟(以下IAAF)が2020年東京五輪における陸上競技の出場資格獲得方法を発表した。陸上競技のアスリートが2020年東京五輪への出場権を獲得するための条件を提示している。
陸上競技における東京五輪出場の条件
- 資格取得期間終了時に、IFFAが定めるワールドランキングで上位に名を連ねていること
- 2019年3月10日に発表された参加標準記録を、資格取得期間中に突破すること
このうち優先されるのはワールドランキングのほうで、参加標準記録はランキングで上位に入れなかった有力アスリートにも出場資格を与えるための手段として用いられる。資格取得期間は、大半のトラック&フィールド競技については2019年5月1日から2020年6月29日まで、10,000メートル走は2019年1月1日から2020年6月29日までに設定されている。
陸上競技全体の出場枠は1900人。個人競技の場合、1種目あたり1つの国から3人までが出場できる。リレー競技は各国1チームずつがエントリー可能。陸上競技では「開催国枠」は適用されないため、日本勢が出場権を得るためには上記2つの条件いずれかを満たさなければならない。
ワールドランキングは各アスリートが出場した大会の「格」やタイム、順位などをポイントに換算し、その平均値で算出する。たとえば2019年4月30日時点の男子100メートルのランキングを見ると、1位はロニー・ベイカー(アメリカ)で、1401ポイント。日本人では9秒98の日本記録を持つ桐生祥秀(きりゅう・よしひで)が1264ポイントで13位、山縣亮太(やまがた・りょうた)が1244ポイントで18位にランクインしている。
ワールドランキングの導入が発表されたのは2019年2月。以降、各種目の参加標準記録は今までにないほどハイレベルなものになっている。再び男子100メートルを例に挙げると、2016年リオデジャネイロ五輪の参加標準記録は10秒16だったのに対し、2020年東京五輪では10秒05と、0.11秒も短縮されている。男子走り高跳は2メートル29から2メートル33、男子走り幅跳は8メートル15から8メートル22、女子三段跳は14メートル15から14メートル32へと上方修正された。1センチを争うこれらの競技の性質を考えると、条件はかなり厳しくなったと見ていい。
各種レースでポイントを稼ぎ、ランキング上位へ
ワールドランキングに名を連ねるためには世界中で行われている大会や競技会に定期的に出場し、好成績を残してポイントを稼がなければならない。大会はIAAFによって、10カテゴリーに分けられている。以下、「格」が上の順から紹介する。
IAAFによる大会カテゴリー
- OW:オリンピック、世界陸上競技選手権
- DF:ダイヤモンドリーグファイナル
- GW:世界室内陸上競技選手権、世界クロスカントリー選手権、コンチネンタルカップ、世界ハーフマラソン選手権、世界競歩チーム選手権、ダイヤモンドリーグ
- GL:ゴールドラベルマラソン、各大陸選手権等
- A:各大陸大会、ワールドチャレンジ、シルバーラベルマラソン、各大陸室内陸上競技選手権 他
- B:ブロンズラベルマラソン、日本陸上競技選手権、エリア公認競技大会(第一線級と認定されるもの)、ユニバーシアード 他
- C:U-20世界選手権、全米学生選手権、エリア公認競技大会(第二線級と認定されるもの) 他
- D:エリア公認陸上室内競技大会、伝統的な国際競技大会 他
- E:国別対抗戦、全米学生室内陸上競技選手権、欧州ユースオリンピック 他
- F:各国の公認競技大会
「OW」や「DF」を筆頭に、上位カテゴリーの大会で好成績を収めるほうが多くのポイントを稼げる。日本で行われる大会を見ると、織田幹雄記念陸上競技大会が「B」、木南道孝記念陸上競技大会や南部忠平記念陸上競技大会などは「C」に分類されている。日本の陸上選手はこれらの大会で実績を残しつつ、可能であれば「GW」のダイヤモンドリーグや「A」のワールドチャレンジなどを転戦してさらに高いポイントを稼ぐのが東京五輪への近道と言える。
男子100メートルはアメリカ優勢。日本人が上位の種目も
資格取得期間の最終日が2020年6月29日までとなっているため、現時点(2019年5月)で2020年東京五輪への出場権を手中に収めている選手はいない。参考までに、主要競技の現時点でのワールドランキングを見てみよう。
男子100メートルは上述したとおりロニー・ベイカー(アメリカ)が1401ポイントでトップ。60メートル走で6秒34の世界記録を持つクリスチャン・コールマン(アメリカ)が1384ポイントで2位につける。ベイカーは1993年生まれ、コールマンは1996年といずれも若手で、100メートルはそれぞれ9秒87と9秒79というの自己ベストを持つ。2016年リオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得したウサイン・ボルト(ジャマイカ)が引退した今、この2人が金メダルの最有力候補となるだろう。3位にはアジア人で初めて10秒の壁を突破した蘇炳添(スー・ビンティエン/中国)が入っている。ボルトを輩出したジャマイカ勢ではヨハン・ブレークの8位が最高位だ。
一方、女子100メートルではマリー・ジョゼ・タ・ルーが1383ポイントで1位、ミュリエル・アウレが1364ポイント3位と、コートジボワール勢がトップ3の2枠を占めている。タ・ルーは2016年リオ五輪の女子100メートルで4位、アウレは準決勝で敗れており、2020年東京五輪ではメダル獲得をめざしている。
長距離の上位は、やはりエチオピア勢、ケニア勢が目立つ。男子5,000メートルでは1386ポイントで1位のセレモン・バレガ、1359ポイントで2位のユーミフ・ケジェルチャをはじめ、ランキング10位までで5名がエチオピア国籍の選手。一方、男子10,000メートルでは1227ポイントで4位のリチャード・ヤトルや1219ポイントで5位のロネックス・キプルトら、ケニア国籍の選手が4名、トップ10入りしている。10,000メートルのワールドランキング1位ジョシュア・チェプテガイと2位ジャコブ・キプリモはいずれもウガンダ国籍で、チェプテゲイは2016年リオ五輪で5,000メートル8位、10,000メートル6位の好成績を残した。キプリモに至っては当時15歳ながら5,000メートルに出場しており、2020年東京五輪ではさらなる躍進が期待できる逸材だ。
日本人が上位につけている種目としては、男子走り高跳、男子棒高跳、男子走り幅跳などが挙げられる。走り高跳では戸邉直人(とべ・なおと)が1310ポイントで6位。2019年2月には2メートル35の日本新記録を樹立したばかりで、メダル獲得も大いに期待できる。棒高跳では2018年のアジア競技大会で大会新記録となる5メートル70をマークして金メダルを手にした山本聖途(せいと)が1249ポイントで11位、走り幅跳では日本歴代2位となる8メートル22の自己ベストを持つ橋岡優輝が12位につけている。ちなみに、橋岡はサッカーJ1リーグ、浦和レッズのDF橋岡大樹の従兄弟であり、2人そろっての2020年東京五輪出場にも期待が高まる。
日本代表内定選手
トラック
【男子】
相澤晃:10000m
【女子】
田中希実:5000m
新谷仁美:10000m