2020年東京五輪から新たに競技として採用されるサーフィン。国内には250万人、世界には3500万人の愛好家がいるとされている。日本ではスポーツというよりも、海のレジャーや若者の遊びというイメージが強いだろう。しかし、実際は、同じものは二度と来ない波を乗りこなすための技術や判断力が求められ、トレーニングを積んだ者にしかできないライディングを競う正真正銘のスポーツだ。東京五輪では世界のトップアスリートによるパフォーマンスに魅了される人が続出することだろう。
1試合10本のライディングで勝負
サーフィンはサーフボードのサイズによって2つに分けられる。ボードの長さが9フィート(約274cm)を超えるロングボードと、長さが6フィート(約183cm)前後のショートボードだ。オリンピックで使われるのは、ボードの先端がとがっているショートボードと呼ばれるもの。競技は「4メンヒート」と呼ばれる方式で行われる。これは4人ずつで競技を行い、2人が勝ち抜ける方式で、1ヒート(試合)は20~25分、選手は10本前後のライディングを行う。サーフボードの上に立つところから競技はスタートし、ターンやジャンプなどを披露していく。難度が高いか、独創的な技であるか、スピードやダイナミックさがあるか、そのような基準から、5〜7人のジャッジが判断する。10点満点で評価し、得点の高い2本の合計点で順位が決まる。
華麗でパワフルな技の数々で、観るものを魅了
ライディングの優劣は、波に乗った本数でも技の数でもなく、質の高いパフォーマンスを発揮できたかどうかで決まる。波のフェイス(面)を駆け上がったり、滑り下りたりしてボードを加速させる「アップス&ダウン」、テイクオフして波に乗ったらトップに駆け上がり、再度テイクオフの位置からやり直す「リエントリー」。サーフボードの進行方向を180度変える「カットバック」、波が崩れようとしている場所にサーフボードを当てこみ、その反動でボードを180度反転させる「オフザリップ」は高得点が狙える技だ。
波のリップを突き抜け、波の天井を駆け抜ける豪快な「フローター」や、波の面を削り取るようにターンする「カービング」、波をトップ(上部)に向かって上がっていき、そこから回転して降りる「360(スリーシックスティ)」、波のボトムから駆け上がるエネルギーを利用して空中に舞い上がり、態勢を崩すことなく着水する「エアリアル」などは、見る者をしびれさせるような高難度の技だ。中が空洞になった波を駆け抜ける「チューブライディング」はサーファーが最も憧れる究極の技といえるだろう。
ひとつひとつの技に決められた点数があるわけではなく、ジャッジが総合的に判断する。技をコンボで出すと、さらに得点は高くなる。美しいライディングを楽しむだけでなく、こうした得点のポイントなども理解した上で観戦できれば、さらに楽しめるはずだ。
天才少女、松田詩野選手の出場なるか
東京五輪でのサーフィンは各国・地域ともに最大2枠ずつとなり、日本には男女1ずつの開催国枠が与えられることが決まっている。日本サーフィン連盟を中心に約80名の強化指定選手が選出されている。このうち2018年度に次期世界大会で4位以内に入る可能性が高い選手である「A指定」を受けたのは男子7人、女子5人。ナショナルチームの名称は「波乗りジャパン」だ。
五輪代表の有力候補として注目するべき選手は、サーフィンの世界ランキングは、年間で11戦ある世界最高峰のサーフィンレースであるワールドサーフィンリーグ(WSL)のチャンピオンシップツアー(CT)で獲得するポイントで決まるが、男子は2018年サーフィン世界ランキングで10位に入り、2019年にWSLのCTに出場する五十嵐カノア、オーストラリアを拠点に活動している新井洋人、2015年のVans USオープン・オブ・サーフィン優勝という、日本サーフィン史上初の快挙をもたらした大原洋人の“ダブル洋人”だろう。
女子では、世界選手権で何度も入賞している大村奈央のほか、A指定ではないものの、ミレニアル世代の天才サーファー少女として注目を集め、アーティストの西野カナとのコラボレーション動画などもリリースしている松田詩野の存在も忘れてはならない。
また、ハワイ生まれで日本人の両親を持つ前田マヒナも注目だ。2018年度の強化指定を受けるタイミングには間に合わなかったが、ハワイから日本への帰属変更を行った。ワールドクオリフィングシリーズ(WQS)で、日本人上位6位以内の条件を満たす今年は、強化指定を受ける見込みで、WSLのCT進出と五輪出場を目指す。
2018年11月カリフォルニア州ハンティントンビーチで開催されていたISA世界ジュニアサーフィン選手権で、ボーイズU18で上山キアヌ久里朱が優勝、安室丈が準優勝、また団体戦でジュニア初となる金メダルを獲得した。若手世代の成長は著しいが、まだ、世界レベルのパフォーマンスには追いついていないのが現状。そこでナショナルコーチに、中南米のコスタリカ・チームを世界レベルへと押し上げた実績を持つウェイド・シャープ氏を招請し、メンタルと技術の両面から強化を図っている。
サーファー天国はやはり別格の強さ
ハワイやオーストラリアは世界屈指のサーファー天国として知られている。やはり波の質が良くて、競技人口が多い国ほど強いようだ。最近、サーフィンがサッカーに次ぐ人気を博しているブラジルが台頭してきた。南アフリカやフランスも強い。こうした国々では、賞金を稼ぐプロサーファーが存在し、テレビや雑誌でも頻繁に取り上げられ、映画も数多く作られている。
男子では、2018年世界ランキング1位のガブリエル・メディナ(ブラジル)、怪我で2018年のシーズンを棒に振ってしまったが、2度の世界チャンピオンに輝いているジョン・ジョン・フローレンス(アメリカ)、またジョーディー・スミス(南アフリカ)、などが有名だ。通算11度の世界タイトルを獲得し「史上最高のサーファー」と呼ばれるケリー・スレーター(アメリカ)は、2019年限りでの引退表明をしており、東京五輪でその活躍は見られそうにない。一方、女子は2018年の世界ランキング1位のステファニー・ギルモア(オーストラリア)、2位のレイキー・ピーターソン(アメリカ)、3位のカリッサ・ムーア(アメリカ)の上位勢に注目だ。2020年東京五輪では世界中から、こうした一流選手たちが千葉県長生郡一宮町にある釣ヶ崎海岸に集う。刻々と変化する自然を相手にトップサーファーたちが見せる最高のライディングを見に行こう。