世界保健機関(WHO)により、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが宣言されたのを受け、3月23日に東京2020オリンピック(7/24~8/9)パラリンピック(8/25~9/6)が、1年程度延期する方向で決定。さらに3月30日に、国際オリンピック委員会(IOC)、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会、東京都、日本政府の4者が、オリンピックを2021年7月23日から8月8日までの日程にすることを合意した。また、パラリンピックは、2021年8月24日から9月5日までとなる。
パンデミックを懸念する各国のオリンピック委員会や各国の競技団体、選手、そして世論の声によって事態は急転したが、地球人類の命に関わることであることを踏まえると、賢明な決断だったといえるのではないだろうか。
国際テニス連盟(ITF)のデビッド・ハガティ会長は、今回の延期を好意的に受け止めた。
「ITFは、この決定を支持します。2021年に向け、引き続き全力でIOCと、国際パラリンピック委員会(IPC)と協力していきます。準備をして、厳しいトレーニングをして来た選手にとっては残念なことですが、人の命と健康、安全が最優先であることは、われわれを含めて皆さんが理解しています」。
また、日本テニス協会の土橋登志久強化本部長は、次のように語った。
「1年程度の延期が発表になってから、日程の発表までが早かったことは、とても良かったと思います。ちょうど1年の延期ということについては、選手もピークを持って行きやすいと思います。まだ(新型)コロナウィルスの感染拡大により不透明な部分が多く残り、オリンピックの出場資格も明確になっていませんが、最高の準備ができる体制を皆で取っていきたいと考えています。感染拡大の状況は心配ですが、選手もスタッフも1人ひとりが自覚を持って、行動していきたいと思います」。
延期決定に対する大坂と錦織の反応
テニス4大メジャーであるグランドスラムで2度優勝し、世界1位になったことがあり、日本を代表するプロテニスプレーヤーである大坂なおみは、自身のインスタグラムで自らの思いをつづった。
「残念という言葉だけでは言い表せない気持ちです。サポーターの皆さんは、私にとって母国である日本で開催されるこのオリンピックが、どれだけ重要な意味を持っているのかご存知だと思います。安倍(晋三)首相とIOCの決断は非常に難しいものだったと思いますが、私をはじめ、すべてのアスリートたちは、2021年の舞台に向けてトレーニングに全力を注ぐことと思います」。
また、世界のトッププレーヤーとして、長年日本テニス界を牽引してきた錦織圭は、自身のアプリで動画を公開して、オリンピック延期について以下のコメントを残した。
「少し安心しました。キャンセルでなかったことと、延期したことはどの選手にとっても良かったことだと思う。もちろんしっかり準備をしたみんなにとっては、辛い選手もいますが、この状況なので、練習ができない選手だったり、いろんな差も出てきているかなと思っていた。2021年に東京でオリンピックが開かれることに対して、とても嬉しく思います。そのチャンスをまた1年後にいい形で迎えられるように、自分も準備をして、この期間を楽しみに待っていようと思います。なるべく早くこの苦しい状況が治るように、みんなで対策をとって、しっかり頑張りましょう」。
新型肺炎がテニス界へ与える影響
もともとプロテニスプレーヤーの東京オリンピックの出場権は、2020年6月8日時点の世界ランキングによって決定されることになっていたが、1年後の延期ということで、これであらためてオリンピックの枠を争うことになっていく。
また、車いすテニスでは、国枝慎吾と上地結衣が、日本人選手としてパラリンピックの出場権獲得に内定していたが、新たな選考基準を待って今後代表を再選考していく予定だ。
WHOが、新型コロナウィルスのパンデミックは加速していると宣言する中、男女共にプロテニスツアーは、7月13日までの中断を表明しており、今後の感染状況によっては再延長される可能性もある。そして、グランドスラムの第3戦・ウィンブルドン(イギリス・ロンドン、6/29~7/12)の中止が決まった。ウィンブルドンの中止は、第2次世界大戦の1945年以来のことで、1968年からのテニスのオープン化(プロ解禁)以降では初めてのことになる。
一方、日本では4月7日に、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、福岡県で、緊急事態宣言が日本政府より発令されることになり、新型コロナウィルスとの戦いは長期戦の様相を呈している。
そんな厳しい状況下ではあるが、大坂の残したメッセージが、ことのほか胸に響いてくるのは私だけではないだろう。
「スポーツは、人々の心を繋ぎ、感動を与えるパワーがあります。しかし、今私たちがしなければならないことは、スポーツを救うことではなく、世界中の人々や人種や国籍の壁を超えて、数多くの命を救うのが一番大切なことです。それこそまさにオリンピック精神ではないでしょうか。日本人の皆さま、2021年にわが国の美しさを世界の皆さまに見せましょう。それまでどうか健康に気をつけて、思いやりの心を忘れずに、みんなで頑張りましょう」。
この大坂のメッセージを全面的に支持したい。スポーツ関係者だけでなく、新型コロナウィルスという目に見えない敵と戦っている全人類への讃歌のように思えるのである。
未曾有の新型コロナウィルスの感染を収束させるために、少しでも早く有効なワクチンの開発と使用開始が待たれるが、人類の尊厳を失わずに、勇気と英知をもってこの困難を克服し、世界的なウィルス感染の封じ込めの証しとして、2021年の東京オリンピック&パラリンピックを迎えられるよう望みたい。