2016年のリオデジャネイロ五輪では、当時ブラジルで流行していたジカ熱への懸念から、各種目で出場辞退が相次いだ。ゴルフ競技でも多くの有力プロ選手が出場を辞退し、日本の松山英樹もリオ五輪を回避した。だが、2020年の東京五輪には、そんな有力選手たちも参加すると見られる。普段は個人の頂点を狙うゴルファーたちが、国を背負って戦うことになる。
ゴルフ東京五輪出場枠争いの概要
東京五輪におけるゴルフ競技出場資格の条件は以下の通り。総出場人数は60名となっている。
- 男子は2020年6月23日時点、女子は2020年6月30日時点のオリンピックゴルフランキング上位15位までの選手で各国最大4名まで
- 16位以下については、1カ国2名(15位以内の有資格者も含む)を上限
- 5大陸(アフリカ、アメリカ、アジア、ヨーロッパ、オセアニア)ごとに、1人も出場資格を有するアスリートがいない場合は、男女ともに最低1つの出場枠を保証
- 大会開催国から1人も出場資格を有するアスリートがいない場合は、男女とも1つの出場枠を保証
そして、東京五輪の出場者を決定する上で重要な「オリンピックゴルフランキング」が稼働。このランキングは、男子がオフィシャル世界ゴルフランキング、女子はロレックスランキングを基に、男子が2018年7月1日~2020年6月22日、女子は2018年7月8日~2020年6月29日の期間で算出される。
出場権の掛かった主要大会
日本ツアーでは、男子は2018年7月に行われた「長嶋茂雄INVITATIONALセガサミーカップゴルフトーナメント」から、女子も同じく2018年7月の「サマンサタバサ ガールズコレクション・レディーストーナメント」からオリンピックゴルフランキングに反映されている。
そして、ゴルフ界で一番格式が高いと言われる男子の4大メジャー大会(マスターズ、全米プロ選手権、全米オープン、全英オープン)や、女子のメジャー5大会(ANAインスピレーション、全米女子オープン, KPMG全米女子プロゴルフ選手権, エビアン・チャンピオンシップ)も「オフィシャルゴルフランキング」に該当する為、五輪出場枠争いにおいても非常に重要な試合となる。
出場権争いの現状
男子は2020年6月23日、女子は2020年6月30日時点のオリンピックゴルフランキングにより、出場選手が決まるため、現状は誰も出場資格を獲得していない。
・現在のランキング(2020年1月22日時点)
【男子】
- 1位:ブルックス・ケブカ(アメリカ)
- 2位:ローリー・マキロイ(アイルランド)
- 3位:ジョン・ラーム(スペイン)
- 4位:ジャスティン・トーマス(アイルランド)
- 5位:ダスティン・ジョンソン(アメリカ)
- 6位:タイガー・ウッズ(アメリカ)
: - 23位:松山 秀樹(日本)
- 36位:今平 周吾(日本)
【女子】
- 1位:コ・ジンヨン(韓国)
- 2位:パク・ソンヒョン(韓国)
- 3位:ネリー・コルダ(アメリカ)
- 4位:ダニエル・カン(アメリカ)
- 5位:畑岡 奈紗(日本)
: - 11位:渋野日向子(日本)
- 15位:鈴木愛(日本)
東京五輪での活躍が期待される有力ゴルファー
男子は2019年マスターズで11年ぶり5度目の優勝を遂げたタイガー・ウッズを挙げたい。プロ通算93勝、メジャー通算15勝を挙げているゴルフ界きってのスーパースター。左ひざの負傷で苦しみながら、2012年「アーノルドパーマー・インビテーショナル」で復活勝利すると、一度は賞金王を奪還している。
その後、背中や腰の痛みに苦しむようになり、2016年のツアーには出場すらできなかったが、4度の手術を経て、2018年9月の「ツアー選手権」で5年ぶりの復活優勝。2019年4月には14年ぶりの「マスターズ」制覇を成し遂げた。日本ツアーでも通算2勝するなど、なじみも深い。体調さえ万全であれば、金メダル最有力候補だろう。
女子は、日本ツアーでも力を示している韓国勢が有力視される。その中でも、日本ツアー通算23勝、うちメジャー大会を4回制覇している申ジエが、最も金メダルに近いだろう。2008年から日本ツアーに参戦し、2014年から4年連続で日本ツアー獲得賞金ランキング5位以内にランクイン。
2018年は、賞金ランキング2位、年間トップ10回数も全体で2位だった。2019年は、5月2日現在で日本ツアー2勝し、賞金ランキング1位。現在世界ランキング18位だが、安定感を維持できれば、慣れ親しんだ日本という地の利を生かして優勝に絡んでくる可能性はある。
日本人選手の出場枠/開催国枠争いの状況、選考大会への出場権獲得状況
日本人選手の出場枠は、開催国枠で最低男女1人ずつの出場権を確保している。そして、オリンピックゴルフランキングで、男女とも100位以内に複数の選手がランクインしているため、男女2人ずつの出場枠を確保できる可能性が高い。
その中でも日本人選手では、出場権確保の最有力候補であり、オリンピックゴルフランキング日本人最上位でもある、松山秀樹と畑岡奈紗に注目したい。
松山は、同学年の石川遼とジュニア時代から切磋琢磨しながら、成長の階段を昇った。2011年「マスターズ」では、日本人初のローアマチュアになり、世界の注目を浴びると、その年の「三井住友VISA太平洋マスターズ」を史上3人目のアマチュアプレーヤーとして制する。
翌年にプロ転向後は、2戦目の「つるやオープン」でプロ初優勝を飾ると、シーズン4勝、獲得賞金も2億円越えを達成し、日本ツアー初のルーキー賞金王に輝いた。2014年からは、アメリカツアーに参戦。「ザ・メモリアルトーナメント」で初優勝を遂げるなど、アメリカツアー通算5勝は日本人歴代トップ。
前回のリオ大会でも出場が有力視されていたが、当時のブラジル国内の衛生環境を考慮して出場を辞退していた。しかし、今回は自国である東京開催の為、ランキングで切符を獲得すれば出場の可能性は高い。
2019年もアメリカツアーに参戦し、3大会でベスト10入りを記録する。期待通りの力を示すことができれば、地元開催の後押しも手伝って、メダル獲得も期待できるだろう。
女子の畑岡は、高校2年生の時に「世界ジュニアゴルフ選手権」を制覇して、世界を驚かせた。2016年には「世界ジュニアゴルフ選手権」を連覇し、その年の10月に行われた「日本女子オープン」では、国内メジャー史上初のアマチュア優勝を達成。
優勝の8日後、17歳271日で日本人史上最年少ツアー出場資格を獲得する。その後「アーカンソー選手権」でアメリカツアー初優勝を日本勢史上最年少の19歳162日で達成。現在までにアメリカツアー3勝を挙げている。
畑岡は来年の東京大会では21歳で迎える。現在主戦場としているアメリカツアーでは、成績が安定しない部分もあるが、若さゆえの成長曲線で、さらに頭角を示せれば、メダルも視野に入るだろう。
2019年5月31時点でのオリンピックゴルフランキングは5位。韓国勢を中心としたアジア勢の存在は脅威だが、アメリカで培われた経験を存分に発揮し、熾烈なメダル争いを演じてくるかもしれない。