村上茉愛:ニューヒロインは“ゴムまり娘”、東京五輪で史上初の快挙を目指す

村上茉愛選手

2017年10月、カナダのモントリオールで開催された世界体操競技選手権で、日本女子体操界のニューヒロインが誕生した。その名は村上茉愛。日本女子として63年ぶりとなる金メダルを獲得した村上は帰国後の記者会見で、自身の愛称を「ゴムまり娘」だと語った。

高難度の演技をこなす、ゴムのようにしなやかな筋肉。そして、ゴムのようにプレッシャーを跳ね返すメンタル。屈託のない笑顔を見せる女子大生に、日本女子体操界の躍進を期待した人も多いはずだ。2018年10月にカタールのドーハで開催された世界体操競技選手権では、金メダルこそ逃したものの、個人総合で銀メダル、種目別ゆかで銅メダルと奮闘した。2020年東京五輪では、表彰台の最も高い場所に立つことが期待されている。

夢はアイドル!?

村上茉愛は1996年8月5日、神奈川県相模原市に生まれた。両親は、ともに元体操選手。茉愛は村上家の3番目の子供だったが、長男と長女、あとから生まれた妹と弟も体操経験者という“体操一家"だ。そんな茉愛が母に勧められて体操を始めたのは3歳の時。その後、オリンピックで4つのメダルを獲得した池谷幸雄が、東京都小平市で体操スクールを開設したことをキッカケに引っ越し。茉愛は池谷幸雄体操倶楽部に所属し、小学校時代から実力を伸ばしていくことになる。

ただ、小学校時代から体操一筋だったわけではない。小さい頃はアイドルになりたかったという村上は、児童劇団に所属し、TVドラマやバラエティー番組などに出演していた。物おじしない性格は、こうした経験からも養われたのかもしれない。

小学校時代から数多くのジュニア大会に出場していた村上が、武蔵野東中学校に進学すると、その才能はさらに開花する。2010年8月、山口県で開催された第41回全国中学校体育大会に出場すると、1つ年上で、当時から注目されていた寺本明日香を抑え、個人総合で優勝を果たす。さらに同年12月、第64回全日本体操競技団体・種目別選手権大会に出場。種目別ゆかで、1つ年上の笹田夏実や、当時日本体育大学所属で注目されていた田中理恵らを抑えて1位を獲得した。2010年度に村上はナショナル入りを果たす。

2012年に明星高等学校に入学すると、さらに注目されるようになる。11月に開催された種目別選手権大会のゆかで2度目の優勝。2013年10月には、ベルギーのアントワープで開催された世界体操競技選手権に出場し、種目別ゆかで4位入賞を果たす。翌年6月のNHK杯での代表入りを逃すも、7月の種目別選手権のゆかで1位となり、中国・南寧での世界体操出場を決めた。同大会での成績は女子団体8位というものだった。

大学1年生で迎えた挫折、第2補欠から這い上がる

2015年に村上は体操の名門、日本体育大学に進学する。H難度のシリバス(ゆか)を得意とするなど、ポテンシャルは抜群で、さらなる飛躍が期待されていたが、いきなり挫折を味わう。当時の村上は、体重のコントロールに苦しみ、コンディションの調整がままならない状態が続いていた。高校時代までの村上は、良くも悪くも、才能や勢いでの演技が結果をもたらしていた印象が強かった。しかし、この時期は集中力を欠き、演技でのミスが目立つようになる。そうしたこともあり、2013年、2014年と連続で出場していた世界体操の代表から落選。第2補欠に滑り込むのがやっとだった。

この苦境が村上に意識改革をもたらしたのだろう。補欠として帯同した世界体操競技選手権。大会直前に負傷者が出たことで、ギリギリでの代表入りを果たす。笹田夏実、杉原愛子、寺本明日香、宮川紗江、湯元さくらとともに団体に出場して5位入賞。同大会では男子団体が金メダルを獲得したため、メディアでの扱いは大きくなかったが、これは2010年のロッテルダム大会以来、団体が実施された大会では、3大会ぶりという健闘だった。

また、村上は個人総合で6位入賞を果たす。これまでは、得意の跳馬、ゆかで高いパフォーマンスを発揮するものの、段違い平行棒と平均台は苦手。そうしたイメージを払しょくするかのように、オールラウンダーとしての才能を開花させた瞬間だった。

そして、2016年に村上はリオデジャネイロで初めてのオリンピックを経験する。宮川、杉原、寺本、内山由綺とともに出場した団体総合で、予選7位だったものの、決勝で4位と躍進。1968年メキシコ五輪以来となる48年ぶりの好成績をおさめた。個人としては総合で14位、種目別ゆかで7位という成績を残した。

63年ぶりの快挙、ニューヒロイン誕生の瞬間

絶対王者・内村航平のいる男子に比べ、注目度が低かった体操女子だが、2017年カナダ・モントリーールで開催された世界体操競技選手権で村上は主役に躍り出る。種目別ゆかで、金メダルを獲得したのだ。同種目の金メダルは、日本女子史上初。そして、日本女子の世界一は、1954年のローマ大会の田中(現姓池田)敬子以来、63年ぶり2人目の快挙となった。また、個人総合と平均台でも4位に入賞。ニューヒロインの誕生は、体操王国ニッポンの復活を予感させるものだった。

そうした期待感が高まる中、カタール・ドーハで開催された2018年の世界体操競技選手権。男女を通じて2007年以来の金メダルゼロという結果を、残念に思った人も少なくないだろう。体操女子は団体総合で6位、東京五輪の出場権獲得には至らなかったものの、村上は個人総合で銀メダル、種目別ゆかで銅メダルを獲得し、ニューヒロインとしての存在感を発揮した。

2020年東京五輪まですでに2年を切っている。23歳で自国開催のオリンピックを迎える村上は、日本女子体操界を担うエースとして、そして、真のヒロインになるために、さらなる飛躍が求められている。

Mai MURAKAMI

日本
体操競技
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