2012年ロンドン五輪で女子初となる団体戦銅メダル。しかし、リオデジャネイロ五輪では8位と失速してしまう。選手寿命が長い競技だけに、2020年東京五輪ではロンドンの銅メダリストを中心に、台頭する若い選手たちと一丸となって、再びメダルを獲るべく、アーチェリー日本女子代表の強化が進んでいる。
122cmの的を狙い、70m先から矢を射る
アーチェリーは標的(ターゲット・フェイス)を狙って弓を引き、弦を放して矢の当たった場所で点数が決まるという、ごくシンプルなスポーツだ。ただ、矢を放つ際の風向きや、風速などを考慮する必要があり、技術のみならず、状況を的確に判断する「知性」がないと勝ち残ることができないスポーツでもある。この簡易さと緻密さをあわせ持つ二面性は、まるで、野生に暮らしていた時代の人間のごとく。これこそがアーチェリーという競技の最も魅力的な部分である。
生涯スポーツとしても人気が高く、自分の体格や腕力に合った道具を使用すれば、子供や高齢者でも気軽に楽しむことができる。実際に全日本選手権大会、国体、オリンピック、世界選手権大会などに出場する選手の年齢差は広く、それだけ選手生命が長いスポーツといえる。
日本ではおもにターゲット、フィールド、インドアの3競技が行われ、いずれも2年に一度、世界選手権大会が開催される。なお、オリンピックでは、ターゲットのみが実施されている。男子、女子とも個人戦、団体戦があり、男女混合のミックス戦も行われる。
出場選手数は決まっており、男子64名、女子64名と定められている。五輪の前年に開催される世界選手権大会(今回はオランダで開催)が最大の予選となり、ここで31名が決定する。この中に2020年五輪の主催国である日本代表3名が含まれている。
さらに、2020年の春までに開催される大陸選考大会などで、新たに31名が決定する。最後の2名はワイルドカードと呼ばれる選手枠で、これから発展が見込まれる国の選手に振り当てられる。
矢を放つ場所から的までは70m離れている。122cmのターゲット・フェイス(標的)の中心を狙って弓で射り、円の真ん中が最高点の10点、外側に向かうほど1点ずつ減っていき、ターゲット・フェイスを外れれば0点となる。
競技は個人、団体、男女混合(ミックス)の3種目
オリンピックでは予選落ちがなく、最初にマッチ戦の対戦相手を決めるためのランキングラウンドが行われる。矢数72射(6射×12エンド)、1エンドの制限時間は4分。個人の満点は720点、団体の満点は2160点。同点の場合は、10点の数により順位を決める。これにより全選手の順位が決定される。
個人戦は、ランキングラウンドで決まった順位によって、1位対64位、2位対63位、3位対62位という組み合わせになり、トーナメント戦で勝ち上がっていく。
1セットは3射で、20秒の制限時間内に交互に射ち、それを最大5セット行う。各セットで得点の高い選手が2ポイント、同点の場合はともに1ポイントを獲得し、先に6ポイントを上げた選手が勝ちとなる。
5セットを終えた時点で同点の場合は、両選手がそれぞれ1射を放つ「シュートオフ」となり、的の中心に近い選手が1ポイントを獲得して、勝利となる。1射目のシュートオフの矢が両選手とも10点の場合、2射目のシュートオフを行う。準決勝で敗れた選手が3位決定戦で銅メダルをかけて戦う。
団体戦は、12カ国が参加。ランキングラウンドでのチーム3名の個人得点を合計したものが団体の得点となる。その順位により、1位から4位までは不戦勝。以下は、5位対12位、6位対11位という組み合わせでトーナメント戦を行う。
1セットは6射(各選手2射×3名)。一方のチームが3射(各選手が1射)したあと、相手チームが3射し、これを繰り返して6射する。1セットの制限時間は120秒。これを最大4セット行う。各セットで得点の高いチームが2ポイント、同点の場合は、ともに1ポイントを獲得し、先に5ポイントを上げたチームが勝ちとなる。
4セットを終えた時点で同点の場合はシュートオフとなり、3名がそれぞれ1射を放ち、合計得点の高いチームが、1ポイントを獲得して勝ちとなる。同点の場合は、最も中心に近い矢のチームが勝ちとなる。
男女各1名ずつのペアによる団体戦(ミックス)には16カ国が参加。ランキングラウンドによる同国の男女の最上位選手1名ずつの個人得点を合計したものが、チームの得点となる。1セットは4射(各選手2射×2名)、一方のチームが2射(各選手が1射)したあと、相手チームが2射し、これを繰り返して4射する。1セットの制限時間は80秒。これを最大4セット行う。各セットで得点の高いチームが2ポイント、同点の場合はともに1ポイントを獲得し、先に5ポイントを獲得したチームが勝ちとなる。4セットを終えた時点で、同点の場合はシュートオフとなり、2名がそれぞれ1射を射ち、合計得点の高いチームが1ポイントを獲得して勝ちとなる。
韓国1強を打ち破れるか。開催国日本
オリンピックのアーチェリー競技は1900年パリ五輪が最初。しかし1924年の二度目のパリ五輪以降はオリンピック競技から一時除外された。復活したのは1972年ミュンヘン五輪。1988年のソウル五輪で、団体種目が追加され、現在に至る。
日本女子は個人競技のメダリストはまだいない。しかし、団体戦では、2012年ロンドン五輪で、男女を通じて初のメダルとなる銅メダルに輝いた。
アーチェリーで圧倒的な強さを誇っているのが韓国だ。1972年以降、行われた12大会の個人戦で、8度金メダルを獲得している。団体戦にいたっては、1988年ソウル五輪から8大会すべてで金メダルを獲得している。ほかにも、中国、ロシア、チャイニーズタイペイ、ドイツ、ロシア、メキシコ、日本などがメダル候補として挙げられている。2020年東京五輪では、韓国1強の牙城を崩す国があるのかが注目されている。
日本人の注目選手としては、まず川中香緒里だろう。1991年8月3日生まれ。ロンドン五輪で銅メダルを獲得したときのメンバーのひとり。リオデジャネイロ五輪にも出場している。続いて、早川漣。1987年8月24日生まれ。川中とともにロンドン五輪の銅メダル獲得に貢献した。幼少の頃は、アーチェリー最強国の韓国で育ち、小学3年生のときから競技を始めている。日本体育大学入学後の2009年に日本国籍を取得している。一時競技から離れて、リオデジャネイロ五輪は不出場だったが、2016年4月に現役復帰し、東京大会出場を目指すと明言した。
2017年アルゼンチンのロザリオで行われた世界ユース選手権キャデット部門で、日本代表は女子団体金メダルに輝いた。ベテランと若手の融合が期待されており、女子チーム全体として、リオデジャネイロ五輪のリベンジを果たすと同時に、開催国のプライドを賭けて、ロンドン五輪銅メダルという成績以上の結果を狙っている。