成田美寿々(みすず)は、ゴルフでも、発するコメントでも、人の心をつかむ。その裏に、何事も楽しむ心と、労を惜しまない努力、そして勝利への執念があるからだろう。これまでにつかみ取った10個のタイトルは、並外れたメンタルと体のタフさの証明だ。
ユーモアあふれる「かわいこちゃんハンター」
成田美寿々(みすず)は、女子ゴルフ界で少し異質な存在感を放つキャラクターの持ち主だ。
その証拠の一つとして、2015年には日本女子プロゴルフのLPGAアワード2015の報道陣選出メディア賞で、「ベストコメント部門」に選ばれている。対象となったコメントは、同年4月に行われたスタジオアリス女子オープンでの優勝会見で発したものだった。
首位につける藤田光里と2打差で迎えた最終日、ギャラリーの大半が初優勝を狙う藤田へ声援を送っていた。バーディを奪った際の歓声は、自身の時と藤田の時とで3倍ほど違うと感じたそうだ。そんな状況を発奮材料に変えて大会コースレコードの「64」をマークし、見事に逆転優勝を果たす。逆境に動じないメンタルの強さを発揮し、「アウェーこそ、私のホームだと思う」という名言を残した。
前述の藤田の他にも、2014年のサマンサタバサ ガールズコレクション・レディースでは香妻琴乃ら、人気と実力を兼ね備える選手を下して優勝を果たしている。華麗な選手に続けて勝利したことから「かわいこちゃんハンター」と自称して会見場を笑いに包むなど、明るくユーモアがあふれる。
プライベートでは、一眼レフカメラを持ち歩いたり、ロードバイクに乗ったり、バス釣りをしたりと多趣味でアクティブ。167センチの高身長を生かしたアグレッシブなプレースタイルと、裏表のない愛嬌のある性格で、男女ともに多くのファンを魅了している。
プロ野球選手との合同自主トレで追い込み
1992年10月8日生まれ。 成田が初めてゴルフクラブを握ったのは、小学6年生の時だった。それ以前は小学4年からバスケットボールに打ち込んでいた。中学入学後はソフトボール部へ入部。千葉県大会に進むほどの強豪チームで3番打者を務めていた。ゴルフはソフトボール部と並行しながら週1回のスクールに通うだけだったが、ジュニア部門で県3位という好成績を収めている。
拓殖大学紅陵高等学校に進学してからはゴルフに専念し、卒業後は競技を続けることとスポーツの指導者をめざして、日本体育大学体育学部に入学した。結局、在学中にプロに転向したため中退することとなったが、勉学に熱心な姿勢はプロになっても変わっていない。
高校時代から指導を受けている井上透コーチは、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科で学ぶなど、データ分析の第一人者として知られている。ラウンド時のスコアをデータ化してもらい、練習方法や試合に生かしているという。また、クラブセッティングは「契約フリー」にしており、クラブに対する探究心は強い。2014年には約200万円という高額な高性能弾道測定器「トラックマン」を購入し、クラブの調整などに役立てている。
「ストイックさ」も持ち味の一つだ。トレーナーが同じというつながりから、広島東洋カープの投手、福井優也と一緒に自主トレに取り組むことがあるが、男性のプロ野球選手と全く同じ量、同じメニューの過酷なトレーニングをこなす。海外の選手がトーナメント中にも練習していることを知り、2018年シーズンからは成田自身も週に1回できる限りトレーニングを実施するようになった。負けず嫌いな根性が、彼女のプロゴルファー人生を支える原動力となっている。
未経験のキャディー抜擢が奏功
ツアーフル参戦の権利を獲得した2012シーズン以降の成田の成績をたどると、2012年の富士通レディースでツアー初優勝。同年の賞金ランクは27位でシード入りを果たした。2013年にプロテストを2位通過すると、NEC軽井沢72ゴルフトーナメントではプロとしてのツアー1勝目を挙げた。
そして2014年は飛躍の一年となった。5月に行われたワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップで初めてメジャータイトルを獲得し、6月のヨネックスレディスゴルフトーナメントで早くも2勝目をマークする。さらに7月のサマンサタバサ ガールズコレクション・レディースも制し、自己最高の賞金ランク5位でシーズンを終えた。
2015年シーズン以降も安定した成績でシード権を保持し続けている。2018年シーズンには、通算10回目の優勝となったアース・モンダミンカップを含めて3勝を挙げるなど躍進。自己ベストタイの賞金ランク5位でフィニッシュした。
2018年シーズンの中でも印象的だった大会は、富士通レディースだ。成田は8月から10月にかけて成績を落としたことで、負の流れを変えるためにパーソナルトレーナーの安福一貴(やすふく・かずたか)氏をキャディーに抜擢した。安福氏は4年にわたって成田のフィジカル面を指導していたとはいえ、キャディーは未経験。ただし、成田ができるだけリラックスしてゴルフをするための空気づくりに長けており、結果、彼女が不調から脱してタイトルを獲得することに成功した。LPGA史上、本職でない人間をキャディーにつけて優勝した選手は成田が初めてだった。
勝利のためなら何でもする。厳しいトレーニングも、入念な研究も、キャディー変更という大胆な決断も。すべての行動は、勝利への強い執念の表れだ。