奥原希望:女子バドミントンの「希望」の星、東京五輪で金メダルへの期待

奥原希望選手

奥原希望は今、日本のバドミントン女子シングルスで、最も実力と実績を積み上げている選手の一人だろう。父の厳しい指導の下、幼い頃から練習に打ち込み、国内はもとより、世界でも活躍するトップスター選手へと上り詰めた。2016年リオデジャネイロ五輪では、女子シングルスで日本人初のメダルとなる銅メダルを獲得。翌年の世界選手権でも日本人初優勝という金字塔を打ち立てた。日本のバドミントン女子シングルスの新たな歴史を切り開いてきた奥原に、東京五輪金メダルの期待が高まっている。

ライバルに敗れて悔し涙の準優勝

2018年11月27日~12月2日、東京の駒沢体育館で行われた全日本総合選手権女子シングルスに、奥原希望は出場した。決勝まで順当に駒を進めた奥原は、昨年の覇者、山口茜とフルゲームまでもつれる激闘を繰り広げた末に敗れた。故障のために奥原は2年連続でこの大会を欠場しており、3年ぶりのタイトル奪還をかけていた。しかし、あと一歩のところでライバルに阻まれてしまった。試合後、「準決勝までとは(相手の)レベルが全然違った。今日は世界トップクラスのラリーを見せられたのでは」と満足げに語った一方で、「最後の詰めが甘くてミスが多かった」と目を真っ赤にしながら答えるなど、反省材料を残したようだ。

全日本総合選手権では悔しい思いをしたものの、奥原にとって2018年は、5月のバンコク・ユーバー杯(世界女子バドミントン選手権大会)の団体戦で37年ぶりの優勝、7月のタイオープン女子シングルスで優勝、8月はアジア大会で48年ぶりの団体優勝、9月に韓国オープン女子シングルスで優勝と、世界を舞台に快進撃を続けた一年となった。

7歳で始め、高校時代から数々の優勝を達成

1995年3月13日、長野県生まれ。姉、兄と一緒に7歳でバドミントンを始めた。高校教諭でバドミントン部の顧問をしていた父の圭永さんから、夜7時から2時間、3人で連打されるシャトルをひたすら受けるというスパルタな練習だったが、小さな頃から活発で負けず嫌いな性格の奥原は、必死で食らいついてきたという。小6で出場したアジアユースジャパンで優勝。すでにこの頃から、世界を意識し始めるようになっていたそうだ。地元中学校を卒業後、多くのプロ選手を輩出している埼玉大宮東高校に進学。高1、高2の全日本ジュニア選手権大会で優勝、高2、高3のインターハイでも優勝。2011年、そして、高校2のときに、16歳8カ月という史上最年少で全日本総合選手権大会に優勝する。また、高3で出場した世界ジュニア選手権でも、日本人として初めて優勝するなど数々の快挙を打ち立てた。2013年4月、奥原は高校を卒業すると日本ユニシスに入社した。

世界のトッププレイヤーの多くが身長170センチ前後であるのに対して、奥原の身長は156センチ。小柄な彼女がトップレベルで戦うための武器はスピードと粘り強さ、そして、周到な戦術だ。持ち前のスタミナでコート全体をカバーして、ロングラリーのゲームを展開。相手の消耗を誘って得点を奪う「攻撃的な守備」は、まさに彼女の代名詞。また、ルーティンを大切することでも知られ、リオデジャネイロ五輪では、試合後の奥原の「お辞儀」が話題に。特に準々決勝で対戦した山口茜に勝利したあと、ベスト4進出の喜びを抑え、深々と「礼」をする、その立ち振る舞いは、多くのスポーツファンから賞賛された。

世界ランキング5位、国際大会で達成した数々の日本人初

2018年11月時点で、奥原の世界バドミントン連盟の世界ランキングは、女子シングルスで5位(日本ランキング2位)だ。かつて3位(日本ランキング1位)になったこともある。なお、世界ランキング2位、日本ランキング1位は、2018年全日本総合選手権で奥原との頂上決戦を制した山口茜だ。

日本人初の記録も打ち立てている。2016年リオデジャネイロ五輪の女子シングルスで、奥原は銅メダルを獲得したが、これはバドミントン男子・女子を通じて、シングルスでメダルを取るのは日本人初の快挙。翌2017年のイギリスグラスゴーで開催された世界選手権の女子シングルスで優勝を果たすが、これも日本人として初めてのことだった。

日本ユニシス所属後に、国際大会シングルスの日本代表として出場し、優勝しているのは以下のとおり。

・2018年 香港オープン▽韓国オープン▽ダイハツ・ヨネックスジャパンオープン▽タイオープン

・2017年 グラスゴー・世界選手権▽オーストラリアオープン

・2016年 全英オープン

・2015年 スーパーシリーズファイナル▽香港オープン▽ヨネックスオープンジャパン▽USオープン▽中国インターナショナルチャレンジ▽マレーシアマスターズ

・2014年 韓国オープン▽ベトナムオープン

バドミントン界をともにリードする山口茜がライバル

奥原のライバルといえば、やはり、山口茜になるだろう。3歳下の山口は、高校時代から国際大会で快進撃を続ける奥原の姿に、日本女子バドミントンに新時代が到来したことを感じ、大いに刺激を受けたという。その後、奥原が怪我をした膝の手術で戦線離脱している間に、今度は山口が活躍し、奥原を奮い立たせた。遠征先では宿泊部屋が同じになることも多く、二人は自然に仲良くなったという。

2016年リオデジャネイロ五輪では、選手村で同室の二人が、女子シングル準々決勝で対決することになった。メダルへの挑戦権を賭けた戦いで、やりにくさもあったと思われるが、ライバルとして、お互いを知り尽くしているからこその白熱した試合展開となり、冷静に試合を運んだ奥原が最後に逆転勝ちを決め、最終的に銅メダルを獲得した。

これまで奥原は、2012年の千葉・世界ジュニア選手権女子シングルス決勝、2015年のヨネックスオープンジャパン決勝で山口と対戦し、いずれも退けてきた。しかし、2018年の全日本総合選手権決勝では惜敗してしまう。試合後、奥原は自身のツイッターで「負けてしまいましたが、今日の試合はとても楽しく茜ちゃんとぶつかり合えました!」との書き込みを、山口とのツーショット写真とともに掲載した。友情、連帯、フェアプレーの精神をもって、相互に理解しあうというのがオリンピック精神だが、それを体現するかのような奥原と、最高のライバルである山口との日本人同士の対戦が、2020年東京五輪で再現されるか楽しみだ。

東京2020を見据え、個人での活動をスタート

リオデジャネイロ五輪で日本人初のバドミントンシングルス銅メダル獲得し、現在の世界ランキング5位の奥原が、2020年東京五輪でメダル獲得する可能性は十分に高いと言える。その奥原が、先日の全日本総合選手権後に、「東京五輪を見据え、個人戦に集中したい」として、日本ユニシス退社を発表した。今後の詳しい活動内容については、まだ明らかになっていない。ただ、自身のツイッターのプロフィール欄に書かれた「自分の可能性を信じる! たとえ誰が何と言おうと」という言葉の通り、常にポジティブで負けず嫌いな性格で知られる彼女なら、これまでも大きな怪我を乗り越えてきたように、未知なる扉を次々と開けていくことだろう。日本女子のエースとして、さらなる輝きを放つことができるのか、奥原希望から目が離せない。

Nozomi OKUHARA

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