土性沙羅:最初の師は吉田沙保里の父|厳しい練習で培われた不屈の精神が最大の強み【アスリートの原点】

プライベートではアニメ、漫画好きの一面も

1 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
現在の趣味は「漫画を読むこと、絵を描くこと」。幼少期は図書館で本を読むようなおとなしいタイプだったという

土性沙羅(どしょう・さら)はオリンピック初出場となったリオデジャネイロ五輪で見事に金メダリストとなった。しかし東京五輪への道のりは苦難の連続だった。世界選手権、全日本選手権で結果を出せず、崖っぷちで挑んだプレーオフ。最後の最後で意地を見せ、出場権をもぎ取った。インスタグラムで投稿するかわいい素顔の裏には、決して諦めない強さが隠されている。

おとなしい少女を変えたレスリング

1994年10月17日、三重県松阪市で生まれた少女はその22年後、リオデジャネイロの地で表彰台の頂点に立っていた。

レスリングとの出合いは小学校2年生の時だ。現在の趣味は「漫画を読むこと、絵を描くこと」という土性沙羅(どしょう・さら)は、外で遊ぶわんぱく少女だったわけではない。休み時間も図書館で本を読むようなおとなしいタイプだったという。

しかし高校時代までレスリングに打ち込んでいた父の則之さんが「いつか娘にもやらせたい」と考えていたことから、レスリング教室を訪れることになった。則之さんは高校時代にレスリングで国民体育大会に出場している。女子レスリング界のレジェンド、吉田沙保里の父である栄勝氏に指導を受けた経験があった。栄勝氏は自身も選手としてレスリング界の第一線で活躍した。名選手だった指導者が教える一志ジュニアレスリング教室に通うことになった時点で、土性のシンデレラストーリーは始まっていたのかもしれない。

オリンピックで女子レスリングが採用されたのは2004年のアテネ五輪。土性がレスリングを習い始めたころはまだジュニア世代への競技の浸透度は低く、道場には弟の蓮を含み計4人しか生徒がいなかったという。

しかし、それでもストイックに稽古に励んだ。毎日夕方6時半から夜10時までの厳しい練習を、父と母が交代で送迎して支えた。同時期に習い始めた弟はわずか4カ月後に全国制覇を成し遂げ、ぐんぐんと成長していく。一方で、いつも怒られていた土性は自信を失っていた。やめたいという思いを直接両親にぶつけたこともあったが「それなら先生に直接言いなさい」と返されると、結局怖くてそれすら伝えられない自分の弱さに気づいたという。

吉田コーチの熱心な指導はその才能への期待だったのかもしれない。土性少女は4年生の時に全国少年少女選手権で初めて優勝し、以来3連覇を達成。地元の鎌田中学校に進学後は、全国中学生選手権で2年次に52キロ級、3年次には64キロ級を制覇してみせた。

研究される難しさを乗り越えリオ五輪で頂点に

2010年にレスリングの名門として知られる至学館高校に進学すると、さらに才能を開花させていく。ただし、同時に警戒される存在としての難しさも味わった。1年次に全国高校女子選手権で頂点に立ったが、その後の全日本選手権では、至学館大学の井上佳子に敗れて準優勝。それでも全国高校女子選手権では3連覇を達成し、同世代における圧倒的な存在となっていった。

至学館大学時代には全日本選抜で2連覇を達成した。悲願の世界選手権代表に選ばれ、2014年のタシュケント大会で見事に銀メダリストとなった。翌年のラスベガス大会でも銅メダルを獲得し、リオデジャネイロ五輪への切符を手にして、夢だったオリンピックの金メダルを奪取してみせた。

しかし、日本女子勢で重量級初のオリンピック金メダリストとなった後は苦難が続いた。脱臼を繰り返してきた左肩の手術、左ひざの故障によって、マットを離れる時間も多くなり、持ち味のスピード感のあるタックルが鳴りを潜めた。

それでも決して諦めない粘り強さが土性を立ち上がらせた。2020年3月、無観客開催のプレーオフで森川美和を下し、なんとか東京五輪出場権を手中に収めた。さらに4月には48キロ級代表の盟友、登坂絵莉とともにYouTubeチャンネルを開設。新型コロナウイルスの感染拡大、東京五輪の延期という暗いニュースが多いなかで「元気を与えたい」と奮闘を続けている。

選手プロフィール

  • 土性沙羅(どしょう・さら)
  • 女子レスリング68キロ級選手
  • 生年月日:1994年10月17日
  • 出身地:三重県松阪市
  • 身長/体重:159センチ/68キロ
  • 出身校:鎌田中(三重県)→至学館高(愛知)→至学館大(愛知)
  • 所属:東新住建
  • オリンピックの経験:リオデジャネイロ五輪 女子レスリング69キロ級 金メダル
  • ツイッター(Twitter):土性沙羅(@SARAbump)
  • インスタグラム(Instagram):土性沙羅(@sara.dosho)
  • ユーチューブ(YouTube):えりさらちゃんねる/eri tosaka sara dosho

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