卓球男子シングル:水谷1強時代の終焉と男子シングルスの飛躍

水谷隼選手(左)と張本智和選手(右)

1950年代、6人の世界チャンピオンが生まれ、世界卓球選手権の団体で5連勝するほどの卓球王国だった日本。半世紀近い低迷期を経て、ようやく日本の卓球が復活しようとしている。2016年リオデジャネイロ五輪では、男子団体で王者中国に決勝で敗れて銀メダルを獲得、男子シングルスでは水谷隼が銅メダルを獲得した。

最近は、水谷を脅かす張本智和が台頭し、長らく続いた「水谷1強」時代に終止符が打たれようとしている。実はこれが男子シングルスに好循環を呼び、東京五輪ではより多くのメダル争いに食い込めるかどうかに注目が集まる。

リオで悲願の初メダル

卓球がオリンピックの正式種目となったのは1988年のソウル五輪から。これまで8大会で実施されてきたが、日本代表が男子シングルスでメダルを取ったのは、リオデジャネイロ五輪の水谷隼の銅メダルが初めてだ。確かに女子団体が2012年ロンドン五輪で銀メダル、リオデジャネイロ五輪で銅メダル、男子もリオデジャネイロ五輪の団体で銀メダルを獲得しているが、シングルス、ダブルスではまったくメダルが取れておらず、水谷のシングルス銅メダルは、まさに日本卓球界の悲願が達成された瞬間でもあった。

戦後の黄金時代を象徴する「ミスター卓球」

現在は中国が圧倒的な強さを誇る卓球だが、日本も実は1950〜1970年代まで世界トップクラスのポジションにあった。当時の世界選手権で計48個の金メダルを獲得するなど、「卓球王国」日本には、強い選手がひしめいていた。

その卓球黄金期を代表する選手のひとりに、1954年ロンドンで開催された世界選手権の団体とシングルスの両方で優勝し、「ミスター卓球」と呼ばれた荻村伊智朗氏がいる。彼は日本選手権優勝 11回、世界卓球選手権で12個の金メダルを獲得するという輝かしい成績を残した。荻村氏は引退後、卓球の普及活動に没頭し、1971年に名古屋で開催された世界選手権で、中国を国際舞台に復帰させ、米中国交正常化につながる「ピンポン外交」をお膳立てしたことでも知られている。国際卓球連盟会長に就任後、1991年千葉の世界選手権では、韓国と北朝鮮の統一チームを結成させることにも尽力した。

王国復権の兆しを、現実のものにできるのか

2016年リオデジャネイロ五輪で水谷選手が銅メダルを獲得するまでは、男子シングルスはベスト8止まりで、予選敗退や1、2回戦敗退も多かった。世界選手権は1952~1979年の16大会で金9、銀4、銅8を獲得しているが、以降、メダル獲得は途絶えている。男子シングルス以外の種目で、たまに銅メダルを獲得する年がある程度だった。

しかし、2010年代に入ってから、再び結果を出し始める。2015年蘇州大会で銀と銅の計2個のメダルを獲得。2017年デュッセルドルフ大会では、吉村真晴・石川佳純両選手による混合ダブルスのペアが、約半世紀ぶりに金メダルを獲得したのをはじめ、計5個のメダルラッシュに沸いた。

ただ、ワールドカップの男子シングルスはメダル獲得数がゼロ。ワールドツアーグランドファイナルでは、2010年と2014年に水谷隼選手が金メダル。アジア選手権は2000~2012年までメダルが途絶えていたが、2013年に松平健太選手が銅メダル、2017年に丹羽孝希選手が銅メダルを獲得した。

「卓球王国」中国の独走

卓球は現在、中国が圧倒的な強さを誇っている。2016年リオデジャネイロ五輪までの男子シングルスの国別メダル獲得数を調べてみると、25個のメダルのうち金メダル5個、銀メダル5個、銅メダル4個の計14個を中国が獲得している。全種目では100個のうち金28、銀17、銅8の計53だ。

1大会で金・銀・銅と、すべてのメダルを独占することもあり、五輪が中国選手同士のトップ争いの場と化している面もある。2016年リオデジャネイロ五輪の男子シングルスで金メダリストとなった馬龍(マー・ロン)選手は、この年のオリンピック、ワールドカップ、世界選手権など、主要な世界大会で優勝を経験した史上初の選手となった。

20世紀半ばまで、ハンガリーやチェコ、オーストリアなどの中央ヨーロッパ諸国が強さを誇った。しかし、オリンピックで正式競技となった1988年ソウル五輪以降、ヨーロッパ勢の金メダルは、1992年のバルセロナ五輪のスウェーデンのみだ。2012年ロンドン五輪ではドイツが銅メダルを獲得している。アジアでは韓国も強いが、2004年アテネ五輪で金メダルを獲得して以降、メダルとは無縁となっている。ここ最近では、日本も実力が認知されて、2020年東京五輪では、中国の牙城を崩すべく、さらなる奮闘が期待されている。

Tリーグ開幕が強化の起爆剤となるか

2018年10月24日に、いよいよ「Tリーグ」が開幕した。ドイツの卓球リーグを参考にシステムが作られており、世界最高水準のリーグを目指すと同時に、オリンピックでメダルを獲得できるようなトップアスリートを育てることを目標にしている。さらに観客から選手まで開かれた地域密着型のリーグ運営によって、卓球の魅力の広く認知してもらうように努める。水谷隼や張本智和などのワールドクラスの選手も参戦など、早くも盛り上がりをみせており、東京五輪に好影響をもたらすことが期待されている。

注目は男子卓球界の“王者”と“新星”

2018年12月時点、世界ランキングの男子シングルスで100位以内に入っているのは、張本智和5位、丹羽孝希10位、水谷隼13位、吉村真晴28位、上田仁32位、大島祐哉33位、松平健太41位、森薗政祟48位、吉村和弘65位、𠮷田雅己69位、及川瑞基77位、宇田幸矢94位の12選手だ。

また、2018年度の男子ナショナルチームに選抜されているのは、(1)丹羽孝希(2)水谷隼(3)張本智和(4)松平健太(5)吉村真晴(6)上田仁(7)大島祐哉(8)吉田雅己(9)森薗政崇の9選手。

2020年東京五輪のシングルス代表選考基準は、2020年1月発表の世界ランキング上位2人まで。上記の選手たちから選抜されることになるだろう。やはり、卓球界の“新星”張本と、オリンピックメダリストの“王者”水谷の二人が大本命ではないだろうか。

張本選手の両親はいずれも中国出身の卓球選手で、2017年ワールドツアーのチェコ・オープンを、最年少の14歳で優勝している。2018年全日本卓球選手権の決勝で水谷選手と激突し、圧倒的な強さで優勝した。なお、水谷選手は日本人選手として初めてオリンピックのシングルスでメダリストになっているほか、様々な国際大会で数々のメダルを獲得してきている。特筆すべきは全日本卓球選手権で過去9回の最多優勝という成績を残していることだろう。長らく水谷“1強”時代を続けてきたところに張本が現れた。果たしてこの二人が、東京五輪で絶対王者の中国を撃破できるかどうか、今、大きな期待と注目が集まっている。

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