2020年東京五輪では、混合ダブルスが卓球の新種目として追加される。男女の有力選手がペアを組んで参戦する種目だ。
2017年に公開された新垣結衣と瑛太ダブル主演のラブコメディ映画『ミックス。』は、卓球混合ダブルスをテーマにしたもので、大きな反響を呼んだ。また、同年の世界選手権で、吉村真晴・石川佳純ペアが48年ぶりに金メダルを獲得するなど、混合ダブルスに関連する話題が豊富で、注目度は急上昇している。
過去を振り返ると、やはり中国が圧倒的に強い種目だが、2020年東京五輪から新たにオリンピックの歴史に加わる混合ダブルスで、中国の牙城を崩し、初代チャンピオンになることができれば、レジェンドとして後世に名を残すことになるだろう。
世界卓球殿堂ペアが初の金メダル
日本の卓球の黄金期は1950〜1970年代。当時の世界選手権でシングルス、ダブルスなど各種目で計48個の金メダルを獲得している。また、混合ダブルスも同様で、1957~1969年には7連覇という金字塔を打ち立てている。1957年にストックホルムで開催された世界選手権で初めて金メダルを獲得したのは、荻村伊智朗と江口冨士枝のペアだ。2年後にドイツのドルトムントで開かれた同大会で2連覇を果たしている。
荻村は1954年にロンドンで開催された世界選手権の団体とシングルスで優勝して以来、世界選手権で12個の金メダル(うち混合ダブルスの金は3個)を獲得、国内の日本選手権でも11回の優勝を誇り、「ミスター卓球」と呼ばれたレジェンドだ。
一方の江口は、素早いフットワークとフォアハンドからの豪打が特徴で、混合ダブルスで優勝した1957年ストックホルム大会では、女子シングルスでも優勝している。世界選手権は1954~1959年まで出場し、日本を3度の優勝に導いた(うち混合ダブルスの金は2個)。荻村、江口の二人は世界卓球殿堂入りしている。
吉村・石川ペアが48年ぶりの金メダル
イギリス・バーミンガムで開催された1977年世界選手権で、田阪登紀夫・横田幸子ペアが銀メダルを獲得して以来、長らくメダル争いから遠のいていた。そして、2011年になってようやく、岸川聖也・福原愛ペアが銅メダルを獲得。その後、2015年のパリ大会で吉村・石川ペアが銀メダルを獲得。同ペアは、2017年のデュッセルドルフ大会決勝で台湾ペアと対戦、激闘の末に4―3で逆転勝ちを収め、1969年ミュンヘン大会の長谷川信彦・今野安子ペア以来、48年ぶりの金メダルを獲得した。
また、アジア競技大会では2010年に松平健太・石川佳純ペアが銅メダルを獲得し、2010年、2014年に岸川・福原ペアがいずれも銅メダルを獲得。アジア選手権では、2009年に岸川・福原ペアが銅メダル、2012年に松平賢二・若宮三紗子ペアが銅メダル、2013年に丹羽孝希・平野早矢香ペアが銀メダル、2015年に大島祐哉・若宮三紗子ペアが銅メダル、2017年に森薗政崇・伊藤美誠ペアが銀メダル、田添健汰・前田美優ペアが銅メダルを獲得している。
有力ペアで群雄割拠の全日本選手権
2017年世界選手権の金メダリストである吉村・石川ペアのほかにも、有力選手が組む混合ダブルスペアが続々と誕生している。やはり、2020年東京五輪で初採用が決まったことが背景にある。2018年1月の全日本選手権には99組が出場した。とりわけ、若手の成長株である張本智和と平野美宇のペアには、高い注目が集まった。JOCの同じエリートアカデミー所属で、すでに2016年の世界ジュニア選手権でペアを組んだ経験もある。お互いをよく知る二人は、練習もしやすく、頼りにできる間柄だという。
このほか、森薗政崇と伊藤美誠のペアは、攻守ともに優れた技を素早く繰り出す技術が持ち味だ。また、大島祐哉と早田ひなのペアは、攻撃的なプレーが得意。田添健汰と前田美優のペアはチームワークがよく、2012、2015、2016年の全日本選手権で優勝している。軽部隆介と松本優希のペアは、2018年全日本選手権の準決勝で、吉村・石川ペアを3-1で退けた。決勝は軽部・松本ペアと森薗・伊藤ペアの対決で、森薗・伊藤ペアが3-0で優勝した。
2020年東京五輪の代表選手は、男女ともに、まずシングルス代表を2020年1月発表の世界ランキング上位2人で決める。団体戦要員となる3人目は、世界ランキングのほかダブルスなどの実績や相性を考慮し、メダルを取れる選手を強化本部が推薦する。2020年1月に男女計6人が発表される見込みだが、混合ダブルスは代表3人の中から最高と考えられるペアが選出されることになる。
全日本選手権に出場した混合ペアの中で、2018年12月時点の世界ランキング100位以内に入っている選手は、張本智和5位、吉村真晴28位、大島祐哉33位、森薗政祟48位。一方の女子は石川佳純3位、伊藤美誠7位、平野美宇9位、早田ひな34位となっている。
中国の牙城を崩し、歴史に名を刻め
混合ダブルスも中国が圧倒的な強さを誇る。2年おきに開催される世界選手権では、1979年平壌大会から2011年ロッテルダム大会まで、メダルをほぼ独占してきた。17大会中10大会で金、銀、銅メダルを獲得しており、金メダルは1991年から2011年までの20年間11大会連続だ。ここに北朝鮮、韓国、台湾などが時々割って入る程度で、かつて強かったヨーロッパ勢の姿は、21世紀に入ってほぼ消えている。
吉村・石川ペアは世界選手権において2015年に銀メダル、2017年は台湾ペアを破って48年ぶりに日本に金メダルをもたらした。ただ、2013年の大会以降、中国は混合ダブルスから手を引いた状態で、2017年世界選手権も中国選手は男女1人ずつ、他国の選手とのペアで出場している。つまり、吉村・石川ペアは中国ペアがいない大会で金メダルを取ったというわけだ。もちろん中国も着々と準備を進めているだろう。
2018年ジャカルタで開催されたアジア競技大会の卓球混合ダブルス決勝は、中国代表ペア同士が対決している。本気になった中国にどこまで通用するのかが、2020年東京五輪でのメダル獲得の鍵だろう。もちろん、日本でも吉村・石川ペアを脅かす強力なペアが続々と誕生している。熾烈な競争が国内で繰り広げられて、日本全体のレベルがアップすれば、日本勢が歴史に名を残すことも決して不可能ではない。果たして代表選考で誰が選ばれるのか、混合ダブルスはどのペアになるのか、今後の展開から目が離せない。