乾友紀子:アーティスティックスイミング界のエースは3度目のオリンピックで表彰台の頂点をめざす【アスリートの原点】

幼稚園児の時にシンクロナイズドスイミングに魅了

1 執筆者 オリンピックチャンネル編集部
デュエットやチームに加え、ソロでも実力を発揮。2019年の世界選手権ではソロ・フリールーティンで銅メダルを獲得している

初のオリンピック出場となった2012年のロンドン大会で、乾友紀子はデュエット、そしてチーム戦でも5位に入った。その4年後のリオデジャネイロ大会では両種目において銅メダルを獲得したが、次なる東京五輪で狙うのは3度目の正直、表彰台の頂点だ。名門の井村シンクロクラブで磨いた技術とメンタルが、今も成長を支えている。

片道2時間をかけて井村シンクロクラブに通う

乾友紀子が生まれたのは滋賀県近江八幡市、1990年12月4日のことだった。

幼稚園児の時、テレビで見たある映像に心を奪われる。それは当時「シンクロナイズドスイミング」と呼ばれていた競技だった。水中をしなやかに動き回り、技の完成度、同調性、芸術的表現力を競うスポーツ。2018年4月に「アーティスティックスイミング」と改称された競技だ。画面に映し出された日本選手権での華やかな演技に、すぐさま魅了された。

そして小学1年の時に地元の滋賀シンクロクラブへ通い始める。全国大会出場をめざし、遊ぶ間もなく練習を重ねた。「小学生のころがシンクロをやっていて一番つらかった時期」と振り返ったことがある。

しかし猛練習が実り、めきめきと実力をつけると、小学6年生からは大阪の井村シンクロクラブに所属し、「伝説のコーチ」井村雅代氏のメソッドを学ぶようになる。井村コーチは言わずと知れた名将で、アーティスティックスイミングがオリンピック種目になってから、日本代表監督としてメダルをもたらし続けている。

乾少女は週に5、6日、学校の授業を終えてから、滋賀の実家から片道2時間をかけて大阪まで練習に通った。母の祥子さんは夜11時すぎに帰宅する娘の体調を心配したこともあったが、「本人はやめたいと言ったことはなかった」という。コーチも「注意されたことを自分のなかでしっかり受けとめ、できない場合は静かに悔しがる芯の強い選手」と、ひたむきな姿勢を評価。クラブの期待の星となっていった。

2009年、立命館大の1年次に初の日本代表入り

2008年7月、近江兄弟社高等学校の3年次には世界ジュニア選手権大会に出場し、デュエットで銀メダル、チームで銅メダルを獲得した。高校卒業後は立命館大学に進学して、2009年には念願の日本代表入りを果たす。初出場となった同年の世界選手権ローマ大会では、チーム、デュエット代表として出場し、デュエットではいきなり4位という好成績を記録してみせた。

アジア・オセアニア最終予選で優勝して出場権をつかんだロンドン五輪では、大学の先輩である小林千紗と組んだデュエットで5位、チームでも5位入賞を達成。ロンドン五輪後の2013年からはソロ競技にも力を入れている。大学卒業後は芦屋大学の職員として勤務しながらトレーニングに励み、リオデジャネイロ五輪では三井梨紗子と組んだデュエットとチーム戦と合わせて2つの銅メダルを首にかけた。

その後は組んでいた三井や中牧佳南が引退を発表したことにより、パートナーが定まらない時期もあったが、2018年のアジア競技大会では吉田萌(めぐむ)とのデュエットで銀メダルを獲得。3度目のオリンピックとなる東京五輪への切符を見事手中に収めた。

新型コロナウイルスの影響により、突然の五輪開催延期の発表を受けても、ベテランは落ち着いている。「足りない部分を克服するための時間をもらえたと前向きに捉え、成長してオリンピックを迎えたい」。日本アーティスティックスイミング界のエースの目には、表彰台の頂点しか映っていない。

選手プロフィール

  • 乾友紀子(いぬい・ゆきこ)
  • アーティスティックスイミング選手
  • 生年月日:1990年12月4日
  • 出身地:滋賀県近江八幡市
  • 出身校:近江兄弟社高(滋賀県)→立命館大(京都)
  • 身長/体重:170センチ/54キロ
  • 所属:井村シンクロクラブ/芦屋大学職員
  • オリンピックの経験:ロンドン五輪(デュエット5位、チーム5位)、リオデジャネイロ五輪(デュエット銅メダル、チーム銅メダル)

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