丹野夏波:日本女子初のBMXチャンピオンが、東京五輪のメダルに挑む

丹野夏波は、2018年ユース五輪ブエノスアイレス大会で、日本人初の銅メダルを獲得(写真は別人)

複雑な起伏のある400メートルの専用コースを8名の選手が一気に駆け抜け、その順位を競うBMXレーシング。レースとはいえ、選手同士の接触や転倒などもあり、その圧倒的な迫力とスピード感は、“自転車の格闘技”とも呼ばれるほど。2008年北京五輪から正式種目に採用され、日本においても徐々に注目度を増している。

2020年東京五輪に向けて2年を切った。日本の選手強化もいよいよラストスパートの段階に差し掛かった。今年からはターゲットアスリートを絞り、重点的なサポートおよび強化を敢行している。1月には、国立スポーツ科学センターと味の素ナショナルサイクリングセンターで、初めてとなる大規模な強化合宿が開催され、国内の代表選考レースもいよいよ熱を帯びてきた。

そして、現在のBMXレーシング界で、代表入りはもとより、メダル獲得の期待がかかる女子選手が丹野夏波だ。

8歳で世界チャピオンに。各世代でトップに君臨

2000年7月5日生まれ。神奈川県出身。この3月に白鵬女子高等学校を卒業したばかりの18歳の少女は、一見ではBMXレーサーと思えない小柄な体格と色白の肌。おっとりした口調で「甘いものとドラマが好き」「流行りのアーティストにハマっている」と、はにかむイマドキの女の子である。しかし、レースとなるとコースをダイナミックに駆け抜ける姿が印象的だ。

BMXに出会ったのは4歳のとき。父親の職場の人に家族で誘われたのがきっかけで、父、兄と3人で始めた。4歳という年齢にも関わらず、恐怖心を抱くこともなく、始めてからほどなくBMX を乗りこなし、いろいろなコブ(コース上の起伏)にトライしていたという。

小学校へ入学すると日本国内を転戦するようになる。シリーズチャンピオンとなり、世界選手権の出場権を獲得。翌年、8歳で出場したUCI BMX世界選手権年齢別クラスで、見事に優勝。日本人女性で初の世界チャンピオンに輝くという快挙を成し遂げた。その後、2009年、2010年と優勝し、世界選手権3連覇を達成。

さらに2012年から2016年まで、各世代の代表として、UCI BMX世界選手権に出場し、決勝進出を果たしている(2012年・3位、2013年・8位、2014年・6位、2015年・4位、2016年・6位。2011年は不出場)。

中学校へ進学すると、部活動でバスケットボール部に所属するものの、両立は困難と考えてBMXに専念することに。その年に日本自転車競技連盟(JCF)のユース強化育成指定選手に選出され、BMXレースの本格的なトレーニングを開始している。その後も丹野の快進撃は続き、2014年、2015年と世代別JBMXF年間シリーズチャピオンに輝き、2016年には全日本選手権のオーバー15歳のクラスで優勝。幼少のころから、各世代のトップとして世界で活躍してきた。

ケガからの復活。ユース五輪フリースタイルで日本初のメダル獲得

ところが、その後の数年、度重なる負傷に悩まされ、結果を出せずにいた丹野はもがくことに。2018年1月にも、鎖骨を骨折する大怪我を負って、手術を余儀なくされ、アルゼンチンのブエノスアイレスで行われたユース五輪選考会を断念した。

術後、5月にタイで開催されたアジア選手権ではジュニアチャピオンに。7月に茨城で行われた全日本選手権では、エリートとジュニアが混走する中、トップでゴール。ジュニアカテゴリー最終年に日本を制した。

しかし、前述通りBMXレーシング代表選考会に出場できなかったことから、この時点で丹野のユース五輪出場は叶わなかった。そこで彼女が取った選択は、土壇場でのフリースタイル・パークへの路線変更。練習期間が1カ月にも満たない中での全日本選手権出場だったが、2位となり、本大会出場を決めた。そして、大霜優馬とのペアで見事3位に輝く。ユース五輪での日本勢初のメダル獲得となり、日本の自転車競技会の歴史に新しい1ページを記した。

今年からエリートカテゴリー。ライバルは絶対的エースの畠山紗英

今シーズンからは、最上級となるエリートカテゴリーで走ることになった丹野。当面の目標は、このエリートカテゴリーでトップクラスの活躍をみせること。それが一番の目標である2020年東京五輪出場に直結するに違いない。

BMXレースでオリンピックに出場できるのは24選手のみ。現在、開催国枠としてひとつを獲得している日本だが、丹野にとって大きな壁として立ちはだかるのが、白鵬女子高等学校の先輩である畠山紗英だ。日本の女子BMX界を牽引してきた絶対的エースであり、14歳からレッドブルがスポンサードを続ける世界的なトップアスリート。現在、畠山のUCI世界ランキングは28位。それに対して丹野は78位(2019年4月現在)と差をつけられている。

しかし、今シーズンからエリートカテゴリーに本格参戦することや、今後の伸び代を考慮すれば、念願のオリンピック出場は射程圏内と言えるだろう。日本人選手が互いにしのぎを削り、国別および国別ランキングの順位を上げることで、出場枠がもうひとつ得られる可能性もある。今後、畠山とレースで直接対決するようなことがあれば、代表選考において大きな注目を集めることになるだろう。

得意のスタートダッシュとロールを武器に、いざ東京2020の舞台へ

日本国内での合同合宿を終え、すぐに丹野はワールドカップに向けてオーストラリアのブリスベンへ飛び、そして、ワールドカップの第1戦と2戦が開催されるイギリスのマンチェスターに移動してトレーニングを行なった。基礎をしっかりと見直しつつ、さらには、本番さながらのスタートシステムを使用した実践的な練習も積み上げ、着実に準備に取り組んでいる。

そして、マレーシア・ニーライで2019年4月に行われたアジアBMX選手権の女子エリートで見事優勝。早速大きな結果を出している。

丹野の持ち味は、スタートダッシュによる爆発的な加速力と、前輪を浮かせて後輪だけで走り、タイムロスを効果的にセーブする“ロール”。五輪開催時には20歳となり、競技歴は16年に達する。経験にもとづいたレース中の繊細なライン取りなどが、彼女の武器だ。この大胆かつ緻密な走りを、さらに高めることができれば、エリートカテゴリーに順応できるはずだ。憧れの舞台に立つため、これからが丹野にとっての本当の勝負の始まりだ。

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