世界規格の長身ワイルドハードラー、安部孝駿の挑戦

日本人離れした体格の阿部は、大きなストライドが持ち味

鍛え抜かれた精神と身体を持つ選手たちが、リズミカルにハードルを飛び越え、トラックを豪快に駆け抜けていく。スピード、筋力、持久力はもちろんのことだが、10台のハードル間を走るためのジャンプ能力や、柔軟性やバランス感覚なども必要とされる400mハードルは、さまざまな運動能力が要求され、最も難易度の高い陸上競技のひとつと言っても過言ではない。そんな専門性の高い400mハードルにおいて、世界の頂に挑もうとする大型ハードラーが日本にいる。安部孝駿である。

高校から本格始動した400mハードル人生

安部は1991年11月12日生まれ。岡山県岡山市出身。現在はデサントに所属している。400mハードルを専門とする安部は、身長192cm、81kgという日本人離れした体格を武器に、名前が示すように“駿馬”のようなダイナミックな走りが特徴。世界規格のスケールを持つ日本人ハードラーとして、2020年東京五輪での活躍が期待される選手のひとりだ。

安部は小学校の6年生のときに陸上を始めた。倉敷ジュニア陸上クラブに所属していたが、ソフトボールチームとの掛け持ちだった。本格的に陸上競技をスタートさせたのは中学に進学してから。地元岡山が誇るスポーツの名門、岡山県立玉野光南高等学校への進学を機に、持ち前の長身を生かして「日本人が世界で一番通用する」と言われるハードルを専門にする。高校1年で出場した第62回国民体育大会“秋田わか杉国体”の少年Bの110mハードルで3位入賞。2年生になると、400mハードルでも頭角を現し始め、日本ユース選手権では110mハードルの当時のユース日本最高記録を叩き出し、400mハードルでも当時の大会記録で制して大会2冠を達成。3年生ではインターハイの400mハードルで優勝。さらに第64回国民体育大会“トキめき新潟国体”の少年Aの400mハードルでは、高校歴代4位となる50秒11のタイムで制し、高校2冠を達成するなど、華々しい記録を残した。

2010年、安部は円盤投げの元岡山県記録保持者の父の母校である中京大学に進学。同年に開催された世界ジュニア陸上選手権400mハードルで銀メダルに輝いた。2011年に出場したアジア陸上選手権では、8、9台目のハードルを倒しながらも優勝を果たし、世界選手権(世界陸上)日本代表の座をつかんだ。ただ、結果は予選落ちに終わった。

日本歴代10位を記録、飛躍した2018年

2014年、大学を卒業した安部はデサントに入社。同年に設立されたデサントトラッククラブで活動している。卒業後から一時期、不振が続いて、惜しくもリオデジャネイロ五輪への出場を逃してしまったが、2017年には世界選手権に出場。準決勝進出を果たし、全体の14位に入った。2018年、アジア競技大会の代表選考会を兼ねた静岡国際陸上競技大会で、日本歴代10位となる48秒68を記録。自己ベストを0秒26更新して見事優勝した。勢いそのままに、万全のコンディションで挑んだ本大会では、49秒12で銅メダルを獲得した。また、飯塚翔太、小池祐貴、ウォルシュ・ジュリアンとともに出場した1600mリレーで、3分01秒94のタイムを出して銅メダルを獲得した。9月にチェコのオストラバで行われたIAAFコンチネンタルカップでは、49秒80で6位と順位を落としたが、2018年の完全な復活劇で改めてその存在を知らしめた。

長身、長髪、日本人離れのルックスが魅力

安部が出場する試合の中継を見ると、改めて、欧米選手と引けを取らない体格の良さに圧倒される。身長が高く、脚が長いため、ストライドが広くて大きいことに気付く。2018年にジャカルタで開催されたアジア大会では、地元の子どもたちからサイン攻めにあうシーンも。「なぜか分からないですけど、けっこう多いです」と、自身の人気ぶりについて控えめなコメントを残していたが、他の日本人選手と並ぶと、頭ひとつ抜け出る安部の姿が目を引くのは自然なことだろう。

世界の壁を痛感しながら、高みを目指す

2018年は、400mハードルにおいて革命的な年だった。アブデラマン・サンバ(カタール)が、世界歴代2位となる46秒98をマーク。これは、人類で2人目の46秒台という歴史的快挙で、聖域ともいえるタイム。ジャカルタのアジア大会では、序盤から大きく引き離され、サンバに手も足も出なかった安部は、「やることはやった気持ちもあるが、今のレベルでは太刀打ちできない」とした上で「2019年の世界選手権では、ファイナルに残れるように力をつけていきたい」とメディアのインタビューに答えている。少しでも世界に近づこうと、闘志を燃やしているようだった。

安部の48秒68という記録は、2018年のアジアランキング2位。これは世界大会でも決勝を狙えるタイムだが、1992年バルセロナ五輪で46秒78をマークしたケビン・ヤング(アメリカ)以来、46秒台を記録した王者サンバとの差は、まだまだあまりに大きい。ただ、安部はサンバを筆頭とする世界の強豪らと競い合い、試行錯誤を繰り返しながら一歩一歩と前進するだろう。世界規格の体格が与えた大きなストライドを武器に、2020年東京五輪を目指す安部のブレイクを期待したい。

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