大坂なおみ(WTAシングルス世界ランキング2位、5月24日付け)が、5月30日にフランス・パリで開幕するテニス4大メジャー(グランドスラム)の第2戦・ローランギャロス(全仏オープン)に臨む。昨年秋に開催された全仏オープンには欠場したので、2年ぶりのローランギャロスでのプレーとなる。全仏オープンは、大坂が苦手にしているレッドクレー(赤土)のコートサーフェスで行われる。
今季ヨーロッパでのクレーシーズンで、大坂は、WTAマドリード大会で2回戦、WTAローマ大会で2回戦(1回戦は上位シードのため不戦勝)、共に早期敗退に終わり、マッチ1勝しか挙げられなかった。
大坂が苦手としているクレーコートの克服は一朝一夕にはいかない。
そもそも大坂は、強力なトップスピン(順回転)をかけてグラウンドストロークを打つ選手ではない。ボールが弾む時にコート表面にあるレンガの粉によって減速し、バウンドが高くなったり、イレギュラーバウンドが多かったりするレッドクレーには適していない。大坂はフラットドライブ系でスピードボールを打ち、その回転が少なめのボールは緩やかな弧を描くような直線的な軌道を描く。だから、クレーに比べて球足の速いハードコートでは大坂のボールは非常に効果的になる。
ただ、普段から大坂が心がけている“重いボール”は、クレーでも有効なはずだ。重いボールは、スピードだけでなく、トップスピンの回転量の多さとの合わせ技で実現する。
「クレーコートでは、重いボールが非常に重要だと思います。でも、不思議なことに(クレーでは重いボールを)あまり使えていないように感じています。実際、ハードコートではもっと重いトップスピンボールを使っている気がします。(ハードコートでの)バウンドに慣れているからかもしれません。確信はないですけど。でも(クレーで)もっとそういうボールを打てるようになりたいですね。自分では進歩していると思っています。自分自身を責めることはできませんが、もっと打てるようになりたいですね」
このように語る大坂は、ハードコートなら時速200kmに迫るビッグサーブが大きな武器になり、サービスエースを狙うことができる。得意とするフォアハンドストロークも、一発でウィナーを狙えるほどのショット力がある。
だが、クレーコートでは、いつもなら一発で決まるショットが減速されるため決まらないことが多く、ポイント中のラリーを組み立て直す時に、どれだけ大坂が我慢強くプレーできるか問題になってくる。
ヨーロッパでの標準コートとされるレッドクレーコートで育った選手やクレーを得意とする選手、いわゆる“クレースペシャリスト”と対戦する時、大坂は分が悪い。やはりクレーでは、攻守のバランスが非常に大切になってくる。大坂は、クレーでの攻守のバランスについて次のように持論を語る。
「ほかの選手がどのようにプレーしているかは分かりませんが、私にとってクレーコートテニスは、全てのボールを振り抜かないわけにはいかないと学んでいます。なぜなら、自動的にオフェンスからディフェンスになってしまうからです。そして、もし私がもっと動きが良くなれば、ディフェンスでのプレーでもリスクを冒すことができます。いまのところ、私は自分が攻撃的であるべきだと思っています。もちろん私はクレーコートを得意とするプレーヤーではありません。でも、クレーコートでは、打てる時に打つことがより重要になると思います」
中村豊トレーナーとのトレーニングによって、大坂のフィジカルとフットワークは向上しており、コートカバーリングが良くなったことはクレーでも有効で、クレー特有のスライドフットワークにも大坂は自信をのぞかせる。
今回の全仏オープンで、大坂は、初めてウィム・フィセッテコーチと一緒に臨むことになる。すでにフィセッテコーチと共に2つのグランドスラムタイトルを獲得してきただけに、心強い味方になってくれそうだ。
「彼女のクレーでの動きは、大きな問題ではない。それより、戦略面や自信を(クレーで)得ることができるかが問題だと思う」
こう指摘するフィセッテコーチは、いまの大坂には、クレーでの多くの成功体験が必要で、そこから得られる自信をたくさん獲得すべきだと力説する。
「(クレーで)彼女は多くの試合をこなす必要があるし、試合の中や自分のゲームプランの中で、自信を得る必要があります。これら(クレーなど)のサーフェスでの成功体験が少ないと、すぐに疑念が生じやすくなる。もし、なおみがハードコートでプレーしていて、フォアハンドのウィナーを狙いに行って、ミスしたら、“OK、次はうまくいくわ”と言うことができるだろう。でも、クレーだと、“もっと余裕をもって打つべきだった。そうすべきだったのに”と、自分の中に疑念が生まれるのです。だからこそ、(クレーで)多く試合でプレーして、できれば成功体験を積んでほしい。一方でまた、敗戦からも学ぶことになる。もし、今年うまくいかなくても、たぶん来年は(クレーで)良いプレーができるでしょう」
大坂は、全仏オープンで第2シードになる予定で、当然周囲からの注目は高いかもしれないが、優勝候補などと考えず、1試合1試合謙虚に戦っていくしかない。
「大坂は学ぶのがとても早い。そんなに時間はかからずに、(クレーで)自信をつかんでいくだろうし、動きももっと良くなるだろう」
こう語るフィセッテコーチの期待に、大坂はどれぐらい応えることができるだろうか。これまで全仏オープンで大坂の最高成績は3回戦だが、ドロー運が良ければ、初のベスト8入りの可能性はあるかもしれない。
球足が遅くなり、試合時間が長くなるレッドクレーの試合では、心技体全てにおいて忍耐強くプレーしなければ、勝利をたぐり寄せることはできない。大坂の何事に対しても学ぶ姿勢が、クレーでのプレーの向上につながっていくことを長い目で見守りたい。
※全仏オープン終了直後、6月14日付けの世界ランキングによって、男女共にTokyo 2020(東京五輪)のテニス競技への出場者が決まる。シングルスでのダイレクトアクセプタンスは上位56名だが、各国・地域の出場枠は最大で4名となる。