初の日本開催となったラグビーワールドカップで、日本代表は史上初のベスト8進出を果たした。格上のアイルランドを相手に起こした番狂わせ、スコットランドとの大一番で示した勝負強さ。「奇跡」ではなく「実力」でつかみ取った予選プール4連勝に、日本中のラグビー熱が高まっている。
屈辱を味わい続けた過去8大会、2012年に転機
ラグビー日本代表が新たな歴史を切り拓いた。初めて日本を舞台に開催されたラグビーワールドカップ(以下W杯)で、過去一度も成し得なかった予選プール突破を果たし、ベスト8に進出してみせた。
これまで日本にとってW杯は、苦闘の連続だった。1987年の第1回大会から8大会連続で出場してきたものの、2015年大会までの通算成績は4勝2分け22敗と大きく負け越し。第1回大会は3戦全敗に終わり、1995年の第3回大会では、ニュージーランドに17−145と、今もW杯史上最多失点記録として残る大敗を喫している。1999年から2011年も5大会連続で勝利を挙げられず、屈辱を味わい続けた。
だが2012年、エディー・ジョーンズ氏のヘッドコーチ就任を機に、大きな変化を見せる。世界の舞台で勝つための強化を進めた日本は、2015年の前回大会初戦で当時世界ランク3位と強豪の呼び声高い南アフリカに34−32で勝利し「ブライトンの奇跡」と称される番狂わせを演じた。スコットランドには敗れたものの、サモア、アメリカも下し、初めて予選プールで3勝。しかし、ボーナスポイントがなかったために勝ち点差で及ばず、3勝を収めながら決勝トーナメントに進めない初めてのチームとなった。
雪辱を果たすため、そして開催国としての意地を見せるべく臨んだ今大会。日本は4年間の成長の証しを確かに示した。開幕戦でロシアを30−10で破ると、第2戦では優勝候補の一角であるアイルランドを19−12で撃破した。サモア戦には38−19で快勝し、ボーナスポイントも獲得して3連勝を飾った。迎えた予選プール最終戦の相手は、前回大会で敗れたスコットランド。日本は28−21で接戦を制し、堂々の4戦全勝。予選プールA組1位通過で世界の8強に名乗りを上げた。
献身的な「全員守備」で強豪国を凌駕
4連勝のなかでも第2戦のアイルランド戦は、今大会におけるプール戦最大のハイライトと言える。大会前時点で世界ランク10位の日本が、同2位のアイルランドに19−12のスコアで勝利した。4年前の南アフリカ戦を想起させるような劇勝に、会場の小笠山総合運動公園エコパスタジアムはもちろん、パブリックビューイング会場など日本中が歓喜に沸いた。
勝因は、日本が積み重ねてきた「準備」にある。
まずは、アイルランドの強力な攻撃を12点に抑えきった組織的なディフェンスだ。日本は205回のタックル数で成功率96%という数字が表すように、選手個々のバトルで体格の大きな相手に劣らなかった。加えて、キックを多用せずにテンポの早い連続攻撃を続け、アイルランドの選手たちの体力を消耗させたチーム戦術も、リードした終盤に相手の猛攻にさらされることを未然に防ぐ効果をもたらした。連続攻撃の継続は、日本にとっても体力の消耗、そしてボールを奪われるリスクがあったが、それを上回るだけのスタミナと自信を持って戦術を遂行したと言える。規律面での意識も高く、無駄なファウルをせずにペナルティの数を6に抑えたことも、アイルランドのチャンスを少なくした。
ベスト8入りをかけた直接対決となったスコットランド戦でも、日本の献身的な守備が光った。日本は先に4トライを挙げ、一時は28−7とリードした。そこからスコットランドの猛攻を浴び、後半9分、14分と連続トライを許スト、コンバージョンキックも決められ7点差に迫られる。残り時間は24分。ほぼ相手ボールで攻め込まれ、ラスト9分間は自陣にくぎづけにされた。だが、相手ボールのスクラムに対抗し、1人に対し2人以上がタックルに行く「全員守備」で耐えに耐え、28−21のままノーサイドを迎えた。日本ラグビー史上初のW杯ベスト8の快挙を成し遂げた。
日本選手の得点王、トライ王も可能性十分
「ONE TEAM」を掲げ、全員攻撃、全員守備で強豪国に対抗している日本は、選手個々の能力でも世界に通用することを示している。予選プールの全日程を終え、48得点を挙げている田村優は得点ランクで堂々の1位だ。前回W杯の経験者である田村は今大会、プレースキッカーを任され、正確なキックで得点を量産。ペナルティーゴール10回で1位、コンバージョン9回で3位と見事な結果を残している。前回大会で五郎丸歩が打ち立てた日本選手のW杯通算最多58得点の更新も視野に入ってきた。
トライ数ランキングでは、松島幸太朗が5回でトップタイ、福岡堅樹が4回で3位タイにつけている。日本が誇る2人の快足ウイングは「ダブルフェラーリ」の異名を取り、強豪国の堅固な守備を突破する大きな得点源となっている。また、攻守にわたり効果的な働きを見せている姫野和樹の奮闘も注目に値する。姫野は運動量や的確なボール運び、そして相手の攻撃の芽を積む守備で貢献しており、サモア戦後にイギリスのスポーツ専門局「スカイスポーツ」が選出したベスト15に名を連ねるなど、海外からも高い評価を得ている。同ベスト15には松島、堀江翔太、ジェームス・ムーア、リーチ・マイケル、流大(ながれ・ゆたか)、ラファエレ・ティモシーも名を連ねている。
スコットランド戦後、福岡は「この時のためにすべてを犠牲にしてやってきた」と話した。予選プールでの4連勝は、決して「奇跡」ではない。自国開催の今大会に向けて入念なトレーニングに励み、一戦一戦に全力で挑んだ選手たちの実力そのものだ。