今、日本のバドミントン女子ダブルスは、黄金時代とも戦国時代とも言われている。現在(2019年5月)、世界ランキングのトップ20に7組が入っており、最大2枠となる2020年東京五輪に向けたデッドヒートがまもなく幕を開ける。ここ数年の実績を考えると、その先頭に立っていると言えるのが、福島由紀と廣田彩花の“フクヒロ”ペアだろう。
世界の頂上決戦を制して全日本2連覇
2018年12月、東京・駒沢体育館で行われたバドミントン全日本選手権の決勝戦。福島・廣田の“フクヒロ”ペアは、2016年リオデジャネイロ五輪金メダルの高橋礼華・松友美佐紀ペアと対決した。2年連続で同じペア同士の対決、そして、日本国内の大会ながら、世界ランキング1位と2位のペアによる頂上決戦となったが、“フクヒロ”ペアが一進一退の攻防から、最後は一気に攻め続け、2-0のストレート勝ちで2連覇を果たした。
2018年、ふたりは地元熊本を拠点とする再春館製薬所を退社し、岐阜トリッキーパンダースに移籍(2019年3月より「アメリカンベイプ岐阜」に名称を変更)。一時は移籍に伴う出場制限が取り沙汰されるという試練の中、練習に集中し、磨きをかけたその実力を存分に発揮した見事な結果となった。試合後、廣田選手は「また日本一のタイトルを取ったという自信を持って海外の試合に回れる」、福島選手は「今日の優勝も来年につながっていくので、いろんなペアを見て、自分たちももっと強くなれるように頑張っていきたい」と語った。
強豪ひしめく日本女子ダブルス界おいて、改めてふたりが日本のエースであることを証明した試合でもあった。その勢いに乗り、福島と廣田は2019年1月のマレーシア・マスターズの女子ダブルスでも優勝を飾った。
熊本が生んだ最強ペア
福島は1993年5月6日、熊本県生まれ。中学時代から全国大会で活躍し、高校は名門の青森山田高校へ進学した。3年生のとき、全国高等学校バドミントン選手権で団体およびダブルスで優勝。2011年度にはU-19バドミントン日本代表にも選出され、世界ジュニア選手権でベスト8という実績を持つ。卒業後は実業団入り。2015年からは再春館製薬所バドミントンチームの選手になった。そのチームメートだったのが廣田だ。
その廣田は1994年8月12日、同じく熊本県生まれ。家族がバドミントンをしていたことから、就学前から地元のジュニアチームで競技を始め、小学6年生のときには、全国小学生バドミントン選手権で熊本代表になるなど、早くもその才能を開花させる。高校は、地元の玉名女子高等学校へ進学し、2年生のときに全国高等学校総合体育大会に出場。女子シングルスでベスト8となるが、のちにペアを組む福島と対戦して敗退している。卒業後に福島と同じ実業団に入った。
ふたりの主な戦績として、2018年には香港オープン優勝、2019年は全英オープン、ドイツオープン、シンガポールオープンでいずれもベスト4などがある。
それぞれの異なるスピードが最大の武器
“フクヒロ”ペアの最大の武器といえば、プレーのスピードに尽きるだろう。前に出るスピードが廣田で、後ろに下がるスピードなら福島といった具合に、ローテーションの速さを持ち味としている。
試合中にそれぞれが大事にしていることは、福島が「我慢」。苦しい場面でミスをしないよう、意識して「ここは我慢」と声をかけているという。一方の廣田は「信じること」。ダブルスはふたりでやっているので、信頼が大事という。
現在の世界ランキングは2位。“タカマツ”“ナガマツ”とのトップの奪い合いが続く
“フクヒロ”ペアは2019年5月13日現在で、世界ランキング2位(94,358pts / 20大会)だ。初めて1位を獲得したのは2018年6月23日で、長く首位に君臨してきた中国の若手ペア、陳清晨(チェン・チンチェン)・賈一凡(ジャ・イーファン)ペアを引きずり下ろした。
世界ランキング上位には、“フクヒロ”ペア以外にも日本勢がひしめいており、実力も拮抗している。現在1位は松本麻佑・永原和可那ペア(“ナガマツ” 95,770pts / 19大会)、4位が髙橋礼華・松友美佐紀ペア(“タカマツ” 88,253pts / 22大会)と、この日本の3組がトップ5内の順位を奪い合う状態だ。
続く7位の米元小春・田中志穂ペアを合わせると、トップ10に日本勢が4組ランクインしている。この後も12位が櫻本絢子・髙畑祐紀子ペア、13位に松山奈未・志田千陽ペア、17位に福万尚子・與猶くるみペアと続いている。
このように世界の女子バドミントン界をリードしている日本女子だが、東京五輪のバドミントン女子ダブルス代表の出場枠は各国最大で「2」だ。選考基準は2020年4月末の世界ランキングの順位で決まり、そのレースはいよいよ2019年4月に始まる。つまり、全員がライバルとなる。
“フクヒロ”ペアが、“タカマツ”ペアを退けて制した全日本選手権の準決勝では、同時に“ナガマツ”ペアも下しているが、2018年8月の世界選手権決勝では敗れた因縁の相手でもある。もちろん、“タカマツ”ペアとも再び一戦を交えることになれば、並々ならぬ思いで挑んでくるに違いない。どのペアが世界ランク1位になってもおかしくない状況で、五輪代表の座はまだまだ盤石と言えないのだ。
熾烈な代表争いを制することができるか
実力が伯仲したペアがしのぎを削る今、日本バドミントン史においても、最も熾烈な五輪代表争いになりそうだ。彼女たちは同じ国際大会に出場し、日本代表として一緒に遠征することになる。もちろん、組み合わせ次第で、日本代表同士で戦うこともある。ランキングを上げるためには、日本代表ペア同士の直接対決に勝たなければならないだろう。
そして、どのペアであろうとも、東京五輪に出場すれば、当然のように金メダルを期待されることになる。代表争いで一歩リードする“フクヒロ”ペアであっても、気が抜けない毎日がこれから1年間続くのだ。東京五輪の2枠を、いったいどのペアが獲得するのか、大注目となりそうだ。