トップスイマーの流儀——北島康介と萩野公介が持つ4つの共通点

新たな風景を見ようという開拓の精神が根底にある

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オリンピックで2冠2連覇を果たした北島康介(左)と「水の怪物」に競り勝った萩野公介(右)

アテネ五輪と北京五輪で2大会連続2冠を果たした北島康介。リオデジャネイロ五輪で、日本人選手の金メダル第一号に輝いた萩野公介。彼らには多くの共通点が存在する。世界一を争うなかで生まれた、北島と萩野が持つ4つの共通点とは? 自身も水泳で全国レベルを経験し、長らく日本競泳を取材してきたライターが読み解く。

文=田坂友暁(Tomoaki TASAKA)

ともに高校3年生で初のオリンピックを経験

今、最も世界で知られている日本人スイマーと言っても過言ではないのが、萩野公介だ。高校3年生で出場したロンドン五輪では、400メートル個人メドレーで銅メダルを獲得。「水の怪物」と呼ばれ北京五輪で8冠という偉業を成し遂げたマイケル・フェルプス(アメリカ)に勝利しての銅メダルに、日本中が沸き上がった。

その後も世界大会でメダルを獲得し続け、2014年のアジア競技大会では、200メートル自由形で孫楊(中国)、パク・テファン(韓国)という各国のエースを打ち破って金メダルを獲得。結果として4つの金を含む7つのメダルを首にかけMVPに輝いた。そしてついにリオデジャネイロ五輪の400メートル個人メドレーで、悲願の金メダルを手にする。

その萩野の先を行くように、世界に自らの名を知らしめ、「蛙王」と称された日本人スイマーがいた。アテネ五輪、北京五輪の2大会連続で100メートル、200メートル平泳ぎの2冠を達成した北島康介だ。

萩野と同じく、北島も初めてのオリンピックは、高校3年生で迎えたシドニー五輪だった。その時は100メートル平泳ぎで4位という結果だったが、その悔しさから一気に世界記録を保持する選手にまで上り詰め、それがオリンピック2大会連続2冠の快挙につながった。

両者ともオリンピックの金メダル後に停滞

個人メドレーだけではなく、自由形や背泳ぎでも世界レベルにある萩野。平泳ぎに特化した成長を続けた北島。得意とする種目に違いはあるが、両者に共通する点は多い。

先述したように、初めて出場したオリンピックは高校3年生。そして初の金メダルも大学4年生時と同じ。進学時や就職など、競技とは関係がない区切りであっても、生活環境や人間関係が大きく変わることは、選手にとって大きなストレスとなり得る。そういった環境の変化もストレスも少ない時期が、高校生活や大学生活最後のタイミングと考えていい。つまり高校3年生と大学4年生だ。1988年のソウル五輪金メダリストの鈴木大地スポーツ庁長官も、初めてのオリンピックとなったロサンゼルス五輪は高校3年生、ソウル五輪は大学4年生だった。

そして、一度オリンピックで金メダルを獲得した後の歩みも、共通する点は多く存在する。北島はアテネ五輪以降、日本選手権でも敗北を喫することが多くなった。それは萩野も同じで、リオデジャネイロ五輪の翌2017年に行われた4月の日本選手権では、同年代のライバルであり、リオデジャネイロ五輪400メートル個人メドレー銅メダリストの瀬戸大也に敗れ、銀メダルに終わっている。

よく選手たちはオリンピックが終わったあと、「残り4年しかない」という言葉を使う。だが、実際の4年は、遠く、長い。そこまで一度世界一になった人間がモチベーションを保ち続け、練習に打ち込み、自分を高め続けることは非常に難しい。萩野も北島もオリンピックの翌年に、その大きな壁に突き当たった。

世界でライバルと戦うことで成長

しかし、国内のレースでは敗れるものの、北島は国際大会ではきっちりとメダルを獲得し続けてきた。それは萩野も同じ。そこに共通するのは、北島、萩野を奮い立たせるライバルの存在だ。

北島にはブレンダン・ハンセン(アメリカ)という、世界記録を更新し合うライバルがいた。萩野にも、瀬戸に加え、チェイス・カリシュ(アメリカ)という強力なライバルが二人もいる。彼らの存在が、北島と萩野の『負けたくない』という思いを焚きつけたと言っていい。

事実、北島は国内で敗れても、世界大会でハンセンというライバルと泳ぐことで意識が切り替わり、必勝モードに突入した。世界という大舞台にハンセンというライバルの存在がスパイスとなり、日本人が誰も成しえなかった2大会連続2冠という快挙に導いた。

萩野には、国内にも瀬戸という世界レベルのライバルがいる。切磋琢磨し合う瀬戸は25メートルプールで行われる世界水泳選手権の400メートル個人メドレーで3連覇中。さらに長水路の世界水泳選手権では、2013年、2015年と同種目で連覇を成し遂げている。

世界の舞台で金メダルを争うライバルが、世界大会だけではなく、国内にも存在していることは、萩野と北島で異なる点かもしれない。ただ、二人とも世界最高峰の舞台で互いに認め合うライバルたちとしのぎを削る楽しさにとことん魅了されたのは同じだろう。「世界の頂点を争うライバルの存在」が北島と萩野の気持ちを高ぶらせ、成長を促してきた。

一切の妥協なく挑戦を続ける開拓の心

ライバルの存在が北島、萩野を奮い立たせると同時に「世界で戦う」という強い信念も生み出した。彼らの最大の目標は、オリンピックでの金メダルだけだ。

世界記録を出すことや世界水泳選手権で勝つことも、目標の一つだろうが、北島はその先にあるオリンピックだけを見つめて戦い続けてきた。その強い信念があったからこそ、前人未踏の境地を切り拓くことができた。

そして萩野は、北島が遺した足跡をたどりながら、さらなる高みをめざしている。萩野は1種目だけではなく、多種目での金メダル獲得という偉業を達成しようとしている。

北島と萩野はともに「開拓者」なのだ。両者とも、誰も見たことがない、新たな風景を見ようとひたむきにチャレンジを続けてきた。現状の記録に甘んじず、一切の妥協なく挑戦を続ける開拓者たちの泳ぎだからこそ、見る者の心を打つ。

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