己の身体だけで自身の体重の倍近いバーベルを持ち上げるウエイトリフティング。腕力だけでは成し得られない、見た目以上にハードな競技だ。長らくメダルに手が届かない日本は、地元開催の東京五輪で悲願の表彰台を狙う。
重量挙げは、力だけでは勝てない競技
ウエイトリフティングは、日本では重量挙げとも呼ばれる、バーベルを頭上まで挙げられるかを競い合う競技だ。近代オリンピックの第1回大会となった1896年のアテネ大会で一度採用され、1920年のアントワープ大会で復活。以降、細かなルールの変更を経て現在の体重制競技となった。
ウエイトリフティングでは、バーベルを持ち上げる動作を大きく2種目に分けている。
バーベルを一気に頭上まで抱え上げながら同時に立ち上がる動きを「スナッチ」。肩の位置までバーベルを抱え上げ(クリーン)、続けて頭上に上げる(ジャーク)動きが「クリーン&ジャーク」という。それぞれ3回行い、持ち上げたベスト重量の合計で順位が決まる。
五輪の場合、スナッチに3回成功しなければ、クリーン&ジャークの試技に進めない。バーベルの落下、床に尻をつけてしまっても失格。スナッチやジャークの際の腕の角度が曲がっていても失格だ。
それゆえにバーベルを頭上に抱え上げるときには腕力だけでなく集中力と瞬発力も必要で、バランスを間違えれば転倒や骨折も有りうる。これを制限時間内(五輪では1~2分)に達成しなくてはならず、メンタルが結果に大きな影響を与えるという。
世界中の怪力自慢が競い合う男子ウエイトリフティング
2020年の東京五輪では、男子は61kg/67kg/73kg/81kg/96kg/109kg/+109kg級の7階級で行われる。引き上げたバーベルの合計重量が同じ場合、選手本人の体重が軽い方が勝利となる。そのため筋肉量を維持した上で、引き締まった肉体に仕上げる必要があるのだ。
2000年のシドニー五輪から女子部門も採用されたものの、筋骨隆々とした男たちのバトルは、女子のしなやかさとは一線を画する、“これぞ重量挙げ”といえる醍醐味だろう。
+109kg級は、とにかく持ち上げるバーベルの重さを突き詰める部門だ。世界中の力自慢の大男が競い合うその迫力は桁違いである。
東京五輪代表枠争いは2019年11月から本格開幕
東京五輪での日本の開催国枠は、男女各3枠計6枠が確保された(階級は未定)。各国最大4枠(男女で計8枠)なっている。
ただし、ウエイトリフティングでは、旧来からドーピング違反が多発していることから、2008年から2020年まで20件以上の違反があれば男女各1枠のみに制限される。10~19件であれば男女各2枠のみとなる。さらに予選期間中に3件以上の違反があれば出場資格の剥奪もある。
代表選考は各国内大会、国際大会で得られるポイントの順位で決まる。2019年11月の世界選手権など国際大会はポイントが高い。
中・軽量級は中国やアジア勢が隆盛、重量級は欧州・中東勢が強豪
かつてはソビエト連邦や中国が席捲していたウエイトリフティング。現在でも70kg級以下は中国がメダル常連国だが、北朝鮮、インドネシアなどアジア圏の国がメダル圏内に食い込むなど新たな動きも見られる。
重量級はソビエト連邦からの系譜が色濃く残っており、東欧、中央アジア諸国が強く、ジョージアやウズベキスタン、アルメニアが上位に来ている。特にジョージアのラーシャ・タラハーゼは、リオ五輪の+105kg級で、スナッチを215kg、クリーン&ジャークを258kg、総計473kgで世界記録をマークし金メダル。2位のゴル・ミナシアン(アルメニア)に22kg差をつけての優勝だった。
中東のイランも近年メダルを多く獲得し、重量級での存在感を増している。
地元開催は暗黒時代から這い上がるチャンス
軽量級の三宅義信が1960年のローマ五輪で銀メダル、1964年の東京五輪で金メダル、1968年のメキシコ五輪でも金メダルを獲得するなど、日本のリフター(重量挙げ選手)が世界に食い込めた時代もあった。
しかし、日本男子代表の五輪メダル獲得は、1984年のロサンゼルス五輪の52kg級の真鍋和人、56kg級の小高正宏、82.5kg級の砂岡良治の銅メダルが最後となっており、久しく表彰台に上がれていない。
体格的な問題から重量級は日本にとって今も難しい階級だが、60kg台なら望みがある。リオ五輪62kg級出場後、翌2017年の世界選手権62kg級で2位となった糸数陽一(警視庁)は、東京五輪61kg級のメダル候補最右翼だ。
同じく、リオ五輪に56kg級で出場した高尾宏明(自衛隊)も、東京五輪の61kg級候補のひとりだ。2017年の世界選手権から62kgに階級を上げて、調子を上げている。
糸数と高尾による61kg級での代表争い、そして地元開催という地の利がある2020年大会。東京五輪でのメダル獲得での期待が高まる。