2016年のリオデジャネイロ五輪で、スウェーデン人女性スイマーとして初の金メダリストとなったのがサラ・ショーストレムだ。競泳界のニューヒロインとして一気に名を上げたが、水泳との出合いは9歳と、トップアスリートとしてはそれほど早くはない。池江璃花子の最大のライバルとしても注目される彼女の原点に迫る。
競泳の女王も、「最初は鼻に水が入って大変だった」
1993年8月17日、サラ・ショーストレムはスウェーデンのストックホルムで生を受けた。
身長182センチと恵まれた体格を持ち、いまや押しも押されもせぬトップスイマーとして知られているが、幼いころのスポーツ経験は意外と少なかった。サラは過去のインタビューで「いろいろなスポーツを数回やったけど、それ以上本格的にのめり込むことはなかった」と振り返り、「チームスポーツは肌に合わなかった」と話している。
実際、友人に誘われてハンドボールやサッカーのチームに入ったこともあったが、そこで自由に自分らしくプレーしたいという思いに気づく。プライベートでボールを蹴って息抜きする今も、「全員私にパスして!」と感じてしまうというほど、競技者として強い自我を持つ彼女にとって、2003年、9歳で出合った競泳という個人競技は最適な表現の場だったのだろう。
「最初は鼻に水が入って大変だった」という。それでも、努力したぶんだけ結果につながる。泳法を改善すればタイムに直結する。競泳の魅力にとりつかれた少女は、順調に記録を伸ばして自信を深めていく。そして2008年、14歳の時にはヨーロッパ水泳選手権に出場。無名の新人ながら100メートルバタフライで金メダルを獲得しただけでなく、準決勝では58秒38のタイムをたたき出し国内新記録を樹立してみせた。
3度のオリンピック出場、そして4つの世界記録樹立
サラの名は瞬く間に競泳界にとどろき、2008年の北京五輪への出場権を手にする。初のオリンピックの舞台は100メートルバタフライで27位、100メートル背泳ぎで29位という悔しい結果に終わったが、結果を追い求めながらも常に「水泳を楽しむこと」を心がけてきた。さらに、得意のバタフライや自由形だけでなく、背泳ぎなどでも、できるだけ多くのレースに参加することで課題を見つけようと奮闘してきた。
水泳へのひたむきな姿勢が実を結び、2009年の世界水泳選手権ではまたも100メートルバタフライで偉業を達成する。準決勝で56秒44を記録。オランダのインヘ・デブルーインが9年間保持した世界記録を塗り替えると、翌日の決勝では56秒06とタイムを縮め、金メダルを獲得した。
2012年ロンドン五輪では惜しくもメダルに手が届かなかったが、2016年、リオデジャネイロ五輪では圧巻の泳ぎを見せる。100メートルバタフライを55秒48という世界記録で制覇。母国スウェーデンに女性アスリートとして初の金メダルをもたらした。200メートル自由形で銀、100メートル自由形で銅と、すべての色のメダルを首にかけている。大舞台で動じないメンタルも、自身の大きな強みだということを証明した。
その後も勢いは止まらず、2017年に入って次々と世界記録を更新。50メートルと100メートル自由形、そして50メートルと100メートルバタフライの4つの種目で世界記録保持者という驚異の肩書きを引っさげ、東京五輪での栄光に照準を定めている。