どん底から完全復調へ向けて。土居美咲が歩み続けるテニス人生

一度はどん底を味わった土居美咲が復活しつつある

ジュニア時代からテニス界で名を馳せていた土居美咲。2016年ウィンブルドンでのベスト16をピークに勝ち星に恵まれないまま、ここ数シーズンを過ごしている。しかし、2019年1月、メルボルンで行われた全豪オープン予選最終日では、2年ぶりの本戦出場を決めた。また、3月にアメリカのフロリダ州で行われたマイアミ・オープン(ATP1000/WTAプレミア、グランドスラム大会に次ぐ格の男女共催大会)では、1回戦で中国期待の新鋭、ワン・シンユ(王欣瑜)を6-2、1-6、6-3で破り、2回戦に進んだ。2018年6月、世界ランクが自己ワースト328位まで落ち、引退も考えるほどのどん底にいた土居は今、本来の姿を取り戻しつつある。

攻撃力で魅了するサウスポーが世界を舞台に羽ばたく

現在28歳の土居美咲(世界ランク104位※)は、左利きのトップスピンがよくかかったフォアハンドストロークが武器だ。6歳からテニスを始め、中学生の全国テニス選手権で二度ベスト4に進出するなど、早い段階からその才能を開花させている。ジュニア時代は、奈良くるみと組んだダブルスで数々の実績を残した。

高校在学中に出場したウィンブルドンジュニアや全米オープンジュニアでは準優勝。その名を世界に知らしめた。日本国内では18歳以下のジュニアシングルスランキングで3位となり、名実ともに日本ジュニアのトップ選手となった。

土居の持ち味は、大柄な欧州勢相手にも堂々と渡り合う攻撃的なテニスだ。159cmの体格は日本人選手としても小柄だが、豊富な練習量に裏打ちされたプレーは躍動感と破壊力に満ちている。ベースラインぎりぎりの逆クロスや、鋭く振り抜く左腕から繰り出されるフォアハンドで、次々とウィナー(相手のラケットに触れることなく決まるポイント)を奪う。

また、サウスポーという利点を生かした効果的なサービスも土居の武器のひとつ。特にアドサイドから逃げていくスライスサービスは、コートの外に相手を追い出してオープンスペースを作り出せるのでウィナーがとりやすくなる。このふたつの武器を軸に、土居は2008年12月、17歳8カ月でのプロへ転向以来実力を発揮してきた。

※2019年4月21日時点

日本人エースとしての功績とプロ人生最大のスランプ

土居がもっとも注目された年は2016年だろう。世界最高峰の大会ウィンブルドンで、日本人テニスプレイヤーとしては12年ぶりとなる16強入りを果たし、同年に開催されたリオ五輪では、日本代表女子のエースとして日本代表に選出された。

オリンピックに初出場した当時25歳の土居。シングルス1回戦は6-3、6-4でシュウェドワ(カザフスタン)に勝利し、2回戦に進出。2回戦では、第13シードで元世界ランク4位のS・ストーサー(オーストラリア)と対戦。土居はストーサーの強烈なフォアハンドのストロークに苦戦し、第1セット、第2セットと傾いた流れを取り戻せず、3-6、4-6のストレートで敗れて、3回戦進出とはならなかった。

リオ五輪で結果は残せなかったものの、直後のウエスタン・アンド・サザン・オープンでは3回戦に進出し、ランキングを32位まで上げた。迎えた全米オープンでは、初めてグランドスラム大会のシード権を手に入れ、自己最高の30位(2016年10月10日付け)を記録し、新たなシーズンでさらなる飛躍を見せてくれるかと周囲を期待させた。

しかし、勝負の世界は厳しく、2017年シーズン以降は勝ちに恵まれないシーズンが続く。追う立場から追われる立場へ。立場の変化は心の様相を変え、プレーにも影を落とし始める。2017年の初夏に腹筋を痛めた影響もあったのか、9月のジャパンウイメンズオープンは初戦敗退。ランキングもどんどん下がり、2018年序盤には世界ランクが300位台まで後退。コートに向かうことに恐怖を覚えるまでになり、引退を考えたこともあったという。

世界で戦い続ける厳しさを痛感した土居。「テニスが好き。一つ一つ地道に」と努力を重ねることで、徐々に復調への足がかりを掴んでいった。そして、2018年8月にはツアー下部大会に相当するITFの大会で優勝。噛み合っていない歯車が緩やかに噛み合っていくのを感じていた。2018年シーズンを戦い終える頃には、ランキングを128位まで戻していた。

勝利で復活をアピール。東京五輪に向けて上昇気流に乗れ!

今年3月のマイアミ・オープン。土居は勝利を収めたことで、四大大会の本戦出場の目安となる世界ランキング100位以内の復帰がほぼ確実となった。また、2019年4月に行われた女子テニス国別対抗戦のフェド杯ワールドグループ2部入れ替えで、オランダ相手に活躍した姿は記憶に新しい。この大会にエースとして出場した土居は、世界ランク149位のスフーフスに6-3、6-2のストレート勝ち。NO.1同士の対決を制して、前日のシングルスから1セットも失うことなく、3連勝で日本の勝利が決まった。残るダブルス1試合も日本が勝利。ワールドグループで、日本が1試合も落とさずに勝ったのは、2012年ワールドグループ2部1回戦の対スロベニア以来7年ぶりのことだった。敗れればアジア・オセアニアゾーンへ転落という“崖っぷち”だっただけに、ワールドグループ2部残留を決めたこの勝利は、土居自身にとっても、日本代表チームにとっても、大きな1勝となった。

勝利の瞬間、何度も両手を突き上げ、喜びを見せた土居。きっとスランプ脱出の糸口を掴んだに違いない。東京五輪に向けて、2年間の不振を吹っ切るようなプレーを見せてくれることを期待しよう。

もっと見る