阿部詩:「日本一かわいい柔道家」は高校時代にグランドスラムと世界選手権を制覇【アスリートの原点】

小学校時代は3位など、あと一歩の成績でも満足
文: オリンピックチャンネル編集部
柔道を始めたのは5歳の時。先に道着を着ていた兄の練習に付き添っているうちに自分でもやりたくなった

阿部詩(うた)は「日本一かわいい柔道家」と呼ばれることもある。柔らかな表情はフリーアナウンサーの赤江珠緒にも似ていると言われるが、柔道家としての実力に疑いの余地はない。ただし、グランドスラムや世界選手権で優勝を重ねる妹は、小学生時代はまだ全国大会を勝ち抜く強さを持っていなかった。

オリンピックが明確な目標に変わったのは高校生の時。グランドスラムや世界選手権で優勝を経験し、大きな自信をつけた

兄の練習に付き添い、「自分もやりたい!」

2000年7月14日生まれ。母は「ななみ」と名づけようかと思っていた。一方、父は「ありきたりな名前はあかん」と考えており、娘が生まれるやいなや「詩(うた)」という名前がひらめいたという。

阿部詩には3歳年上の兄がいる。兄の一二三(ひふみ)が、ずっと目標だった。今も柔道に打ち込む兄の背中を追い続けてきた。

兄の一二三は6歳の時に地元にある兵庫少年こだま会で柔道を始めた。当時からきょうだいの仲が良く、妹はよく兄の練習に付き添っていた。最初は見学しているだけだったが、おてんばな妹は見ているだけでは飽き足りなかった。5歳の時、「自分もやりたい!」と言い出し、「女の子だからピアノとかのほうが」と話す父の意見を聞き入れながら道着を着始めた。並行してピアノと水泳も習った。

大会に出ると、3位などあと一歩の成績が多かった。それでも満足していたが、兄がめきめきと強くなっていった。優勝を重ねる兄の姿に憧れ、自分も頂点をめざしたくなった。そして小学校の高学年になると、柔道によりのめり込む理由ができた。5年生の時に全国小学生学年別柔道大会の40キロ級に出場したが、2回戦で敗退。6年次の同大会45キロ級では1回戦で敗れ去った。自分の未熟さを痛感し、火がついた。

2019年11月のグランドスラム大阪では決勝でアマンディーヌ・ブシャール(右)に敗れ銀メダル。東京五輪出場を内定させられず、涙を流した

東京五輪代表入りを逃し、号泣

小学校を卒業後は夙川(しゅくがわ)学院中学校に進学する。小学生の時から同校の柔道部で練習させてもらっていた縁もあった。「自分には柔道しかないな」と気づき、毎日4時間ほど稽古に励んだ。2015年、中学3年次には全国中学校柔道大会の52キロ級で優勝を果たし、さらなる成長のきっかけをつかんだ。

小さなころから意識していたオリンピックが明確な目標に変わったのは高校生の時だ。夙川学院高等学校に進んだ2016年、大きな手応えをつかんだ。4月の全日本カデ柔道体重別選手権大会で初優勝を飾る。11月の講道館杯全日本柔道体重別選手権大会では高校1年生ながら3位入賞。12月にはシニアの国際大会グランドスラム東京において、史上最年少の16歳141日で決勝進出を果たしている。準優勝に終わったものの、大きな自信を得た。

高校2年次にはグランドスラム東京を制覇。きょうだいそろって金メダルを獲得した。グランドスラム・パリでも世界の頂点に立ってみせた。3年次の2018年には兄とともに世界柔道選手権に出場する。同大会は初出場ながら、52キロ級で優勝を果たし、オリンピック出場という明確な目標に着実に歩みを進めていく。

2019年には兄を追うように日本体育大学に進学する。8月の世界選手権で2連覇を達成し、東京五輪に向けて視界良好に思われたが、11月のグランドスラム大阪では決勝で敗戦。技ありで敗れて東京五輪代表入りを逃すと、人目もはばからず号泣した。

その3ヵ月後、2020年2月にグランドスラム・デュッセルドルフで優勝を手繰り寄せ、ようやく東京五輪出場を内定させた。メディアに対して「オリンピックは人生最大の目標。自分のすべてを東京五輪にかけたい」と宣言。兄の一二三とともに金メダルを獲得する──それが最高のシナリオだ。

選手プロフィール

  • 阿部詩(あべ・うた)
  • 柔道 女子52キロ級
  • 生年月日:2000年7月14日
  • 血液型:B型
  • 出身地:兵庫県神戸市
  • 身長/体重:158センチ/52キロ
  • 出身校:夙川学院中(兵庫)→夙川学院高(兵庫)
  • 所属:日本体育大(東京)
  • オリンピックの経験:なし
  • インスタグラム:阿部 詩(@abe_uta)
  • ツイッター:阿部 詩 (@aaa001utan)

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