写真: 2019 Getty Images

阿部一二三:天才肌の妹と対照的な努力の柔道家|父の助言で体幹を鍛えた少年時代【アスリートの原点】

「一歩一歩進んでほしい」名前の由来のとおり地道に成長
文: オリンピックチャンネル編集部

日本柔道史上に残るであろう丸山城志郎との激戦を制し、男子66キロ級の東京五輪代表に内定した阿部一二三(ひふみ)。実力に加え、あるメディアが実施したイケメンスポーツ選手ランキングにも名を連ねるなど人気も兼ね備える柔道界のスターは、女子52キロ級代表の妹・阿部詩(うた)とともに柔道一家で育った。

2014年、17歳の時にユースオリンピックで優勝し、講道館杯全日本柔道体重別選手権大会も制してみせた

父との二人三脚で自主練は1日6時間

1997年8月9日、3人きょうだいの次男として生まれた阿部一二三(ひふみ)は、柔道の試合をテレビで観たことがきっかけで興味を持ち、6歳の時に兵庫少年こだま会柔道部へ入部した。

「天才肌」と言われる3歳下の妹・詩(うた)とは対照的に、阿部は努力家だった。体が小さかった阿部は、女の子相手に負けてしまうこともあり、悔しさのあまり、部の練習時間以外にもトレーニングを積んだ。ランニングや階段ダッシュに加え、ラダートレーニング、メディシンボールなど体幹を鍛えるために工夫を凝らしたメニューをこなす日々。バスケットボール大の重さ2キロのトレーニングボールを上や横に投げたり、柔道で使う筋肉を意識して腰や腕をひねる「円の動き」も取り入れたりした。

それらは消防士の父・浩二さんのアイデアを取り入れた独自のものだった。父は小学生のころに競泳で全国大会入賞を果たした経歴を持ち、自身の経験を生かしながら阿部の自主練を支えた。日々の自主練習は6時間にも及び、練習試合では年齢や階級が上の選手を相手に、1日30試合近くをこなしたという。

体の小ささもあり、小学生のころはなかなか芽が伸びなかった阿部だが、「一歩一歩進んでほしい」という名前の由来のとおり地道に成長を遂げ、中学2、3年生で全国中学校柔道大会連覇と頭角を現した。

丸山城志郎(左)とのライバル関係は熾烈を極めた。2020年12月の死闘を制し、東京五輪出場を内定させた

背中を追いかけてきた妹・詩の存在が刺激に

阿部が柔道界で「数十年に一人の逸材」と言われる要因の一つとして、多くのファンを魅了する均整の取れた肉体が挙げられる。階級別で競う柔道において、体重管理は競技の肝となる。阿部は自身の筋肉量を最適にコントロールする術を成長過程のなかで身につけてきた。

その筋肉を生かし、背負い投げや袖釣り込み腰といった豪快な投げ技を得意とする。小学校高学年から阿部を指導してきた松本純一郎監督が、小柄な体格でも相手選手を投げられるよう、「腰で投げる技術」を教え込んだ。

シニア大会デビューは高校2年生の時だった。2014年、講道館杯全日本柔道体重別選手権大会に出場し、男子史上最年少となる17歳2カ月で優勝。若きホープとして注目を浴びたが、翌年はヨーロッパ遠征や柔道グランドスラム東京の代表選考から落選してしまう。だが、決して順風満帆な道のりではなかったことが阿部をさらに強くした。「どうしたらもっと強くなれるか」と考えに考え、負けた経験を試合で生かしていった。

妹の詩が兄の背中を追いかけるようにグングン成長を続けたことも、阿部にとっては発奮材料の一つだった。阿部が国際大会初優勝を飾ったのは17歳の時。しかし、詩は16歳で果たした。20歳の時、阿部はようやく世界選手権優勝を成し遂げたが、詩は2歳早く18歳で達成した。

幼少期はカードゲームをめぐってよくケンカをしていたが、今は互いに刺激を与え合い、精神的な支えとなる存在。「兄妹で金メダル」を達成すべく、東京五輪を見据えている。

選手プロフィール

  • 阿部一二三(あべ・ひふみ)
  • 柔道 男子66キロ級選手
  • 生年月日:1997年8月9日
  • 出身地:兵庫県神戸市
  • 身長/体重:170センチ/66キロ
  • 出身校:和田岬小(兵庫)→生田中(兵庫)→神港高(兵庫)→日体大(東京)
  • 所属:パーク24株式会社柔道部
  • オリンピックの経験:なし
  • ツイッター(Twitter):阿部一二三 (@hifumi110)
  • インスタグラム(Instagram):Hifumi.Abe (@hifumi.abe) 

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