新谷仁美:岡山のスポーツ万能少女が、走ることが嫌いな「怪物ランナー」になるまで【アスリートの原点】

高校駅伝3年連続区間賞で「怪物」の称号

2020年12月の第104回日本陸上競技選手権大会で女子1万メートルの日本新記録を樹立し、東京五輪代表に内定した新谷仁美(にいや・ひとみ)。あけすけな物言いで「走るのは嫌い」「お金のために走る」と公言するが、もともとは走ることを楽しむ少女だった。

高校時代の実績で「駅伝の怪物」と称された。笑顔が印象的なランナーだ

サッカーやバスケなどでも才能を発揮した万能ぶり

新谷仁美(にいや・ひとみ)は1988年2月26日、岡山県都窪郡山手村(現・総社市)で生まれた。3人きょうだいの末っ子で、山手小学校時代の恩師は「走ることが大好きで、何かがあったら走っていた」と当時を振り返る。

小学3年でサッカーを始め、他にもバスケットボール、水泳、卓球、テニスと、あらゆるスポーツに親しんだ。そして、どの競技でも才能を発揮したという。

総社東中学校では陸上部に入り、長距離を専門に取り組んだ。ただし走ることに専念したわけではなく、並行してバトントワリングも始めた。スポーツを楽しみながらも、それほど競技に執着しなかった少女時代がうかがえる。

高校は地元・岡山県にある陸上の名門校、興譲館高等学校に進学する。全国高等学校駅伝競走大会には3年連続で出場することになるが、1年次の2003年、第15回大会ではエース区間の1区6キロを走り、19分17秒で区間賞を獲得。全国的に無名だった1年生がいきなり快走を見せ、一気に注目を集めた。

続く2年次の2004年、第16回大会では、同じ1区で史上初めて19分の壁を突破し、18分53秒の区間新記録を樹立。3年次の2005年、第17回大会ではその記録をさらに更新する18分52秒で走り、興譲館高の優勝に貢献した。1区で記録を更新しながらの3年連続区間賞という快進撃を見せたことで、いつしか「駅伝の怪物」と称されるようになった。

高校時代までは走るのが楽しかったという。

18歳で挑んだ2007年の第1回東京マラソンでは、2時間31分01秒のタイムで優勝を果たしている

24歳で引退、復帰後も「走るのは嫌い」でも日本記録更新

高校卒業後は豊田自動織機に入社。シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子氏に憧れていたことから、佐倉アスリート倶楽部で小出義雄氏の指導を受けた。当時は「笑顔が似合うマラソンランナーになりたい」と語った一方で、「走ることが仕事」という職業意識もすでに持っていた。

2007年には第1回の東京マラソンで初マラソンに挑んで優勝。2時間31分01秒という上々の記録だった。2012年のロンドン五輪には5000メートルと1万メートルで出場し、1万メートルでは30分59秒19のタイムで9位入賞を果たした。トラック種目への適正が見えてきた。

翌2013年には世界陸上競技選手権大会の1万メートルを30分56秒70で走り抜けた。自己ベストを更新し、5位入賞の快挙を成し遂げている。しかし、このレースを最後に2014年1月、25歳にして現役引退を表明。右足裏の筋膜炎が主な理由だったが、走ることへのモチベーションを失ったことも一因だった。

引退後は3年にわたって会社員生活を送っていたが、2017年夏、プロランナーとして復活を果たす。「走る方が稼げることがわかった」という言葉で復帰を語ったこともあった。ただ、「走ることは嫌い」と公言しながらも、徐々に「怪物」の実力を取り戻し、さらに伸ばしていった背景には、引退前の自分を越えたいという思いもあるのだろう。

2020年、新型コロナウイルス流行の影響で活動を自粛せざるを得ない期間中も、走る意欲は保ち続けた。それが同年12月の30分20秒44という日本記録更新と東京五輪内定、そして2021年1月のアスリート・オブ・ザ・イヤー受賞につながった。

東京五輪に向け、「最高のパフォーマンスを見せたい」と話したことがある。2大会ぶりとなるオリンピックの舞台で走るのは「お金のため」だけではない。

選手プロフィール

  • 新谷仁美(にいや・ひとみ)
  • 陸上女子1万メートル選手
  • 生年月日:1988年2月26日
  • 出身地:岡山県都窪郡山手村(現・総社市)
  • 身長/体重:166センチ/44キロ
  • 出身:山手小(岡山)→東総社中(岡山)→興譲館高(岡山)
  • 所属:積水化学工業 女子陸上競技部
  • オリンピックの経験:ロンドン五輪5000メートル 予選敗退、ロンドン五輪1万メートル 9位
  • ツイッター(Twitter):新谷 仁美 (@iam_hitominiiya)
  • インスタグラム(Instagram):新谷 仁美 (@iam_hitominiiya)

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